映画【ザ・フラッシュ】感想(ネタバレ):2人の主人公が駆ける、多次元ヒーロー譚

The Flash (2023)
スポンサーリンク

●こんなお話

 フラッシュが亡くなったお母さんを救うために過去改変したら大変な話。

●感想

 朝、主人公が出勤しようと家を出たところに、偶然出くわした人助けの依頼。困っている人を放ってはおけず、ついつい引き受けてしまう。遅刻するとわかっていながらも、体が動いてしまう彼の性格が、その一場面だけで伝わってきた。結果として職場には遅れてしまい、上司から小言をもらう羽目になるのだけれど、正しさと社会の歯車のあいだで揺れる姿は、この人物がどこまでも“ヒーロー”として描かれる物語の導入としてはふさわしかったと思います。

 ふとしたきっかけで学生時代の同級生と再会する。彼女はメディア関係の仕事に就いていて、何気ない世間話のようでいて、どこか探るような言葉を交えてくる。主人公の父がかつて母を殺害したという容疑がかけられている件を話題にしたとき、表情が固まる主人公。そのあと、幼い頃の家族の思い出が回想される流れが胸を締めつける。楽しく、何でもない日々だったからこそ、その喪失の大きさがじんわりと伝わってきました。

 夜、その同級生が再び主人公のもとを訪ねてくる。話の中で、「もしあのとき父が缶詰を買いに行っていなければ…」という“もしも”が語られ、それが時間軸をずらす物語の引き金になっていく。主人公は過去へ戻る決意をし、スーパーでそっと缶詰を母の買い物かごに忍ばせる。それで未来が変わるはずだった。だが、謎の人物に突き飛ばされた主人公は別の時間、別の時代に飛ばされてしまう。

 たどり着いた先には母が生きている世界が広がっていた。そして、そこには若い頃の自分自身が存在していた。つまり、彼は自分自身の過去へとタイムスリップしてしまったのだ。ふたりの主人公が出会ってしまうという不思議な構図の中、今の主人公は過去の自分を連れて、ある場所へ向かう。それは、主人公が超人的な力を得たまさにその日であった。

 しかしそこでは予想外のことが起こる。雷の力によって、能力は過去の主人公に移り、今の主人公は力を失ってしまう。能力を得たばかりの過去主人公は、浮かれてはしゃぎ、ドタバタと騒動を巻き起こしていく。彼らはバットマンのもとを訪れることになるのだが、そこにいたのは今の主人公が知っているバットマンとは違う、年老いたバットマンであった。

 さらに話は広がっていく。今度はスーパーマンを救い出すために、ソ連の研究施設へと向かう。だがそこにいたのはスーパーマンではなく、スーパーガールだった。彼女を助け、再びスーパーマンの行方を探すことになるが、やがて彼らの前に現れたのは、かつて『マン・オブ・スティール』で描かれたクリプトン人だった。

 彼らとの戦いに備え、今の主人公は落雷によって再び力を得ようとする。壊れてしまった装置のかわりに、スーパーガールが空へと彼を運び、雷の一撃によって力が戻るという流れは、まるで神話のような美しさがあったように感じた。そしていよいよ、主人公たちとクリプトン人との総力戦が始まる。

 だが、戦いは簡単には終わらない。スーパーガールもバットマンも倒れてしまい、主人公たちは過去へ戻ってやり直しを試みる。その繰り返しの中で、何度挑んでも皆が同じ結末を迎える現実に直面していく。希望を捨てない過去主人公に対して、今の主人公が語りかけるシーンには、それぞれの成長と心の痛みが込められていて、心が震える場面でした。 

 そのやりとりの最中、突如として襲いかかってくる謎の人物の正体が明らかになる。真相が示されることで、すべての時間が一本の線でつながっていくような印象を受けます。ラストは、缶詰をそっと母の買い物かごに入れたあの場面へと回帰していくが、すべてが丸く収まったかと思いきや、最後の最後に新たなバットマンが現れるという余韻のあるエンディング。

 映画の冒頭では、主人公が赤ちゃんを救う人助けのシーンと、バットマンがカーチェイスを繰り広げるシーンが交互に映し出され、強い導入としての役割を果たしていたように思います。ユーモアと緊張が同居していて、観客の心を物語の世界に引き込む仕掛けとして見事だったと感じました。

 主演のエズラ・ミラーが一人二役を自然に演じ分けていて、それぞれの人格がちゃんと違って見えるのは本当に素晴らしかったです。そしてマイケル・キートン演じるバットマンの佇まいも非常に魅力的で、渋くてかっこよく、でもどこかコミカルな一面も垣間見せてくれる。その絶妙なバランス感覚が、作品全体のトーンにも影響を与えていたと思います。

 脇を固めるキャラクターたちも印象的で、スーパーガールの力強さと儚さ、そして主人公の両親の存在感も物語を支えていたように感じました。それぞれが持つ背景や想いが、ほんの少しの描写でも伝わってくるような演出に好感を持ちました。

 ただし終盤は、CGによる派手な映像が続き、視覚的には圧倒されるものの、どこか既視感のある展開でもありました。過去作からのキャラクターたちの登場に歓声が上がる一方で、それが物語の筋とどれだけ有機的に結びついていたのかについては考える余地があるように思います。

 とはいえ、ひとつの時間軸をめぐる冒険として、そして“自分”という存在と向き合う物語として、この作品が届けてくれたものは多くありました。大スクリーンで観る価値のある一作だったと感じます。

☆☆☆

鑑賞日:2023/06/17 イオンシネマ座間

監督アンディ・ムスキエティ 
脚本クリスティーナ・ホドソン 
キャラクター原作DC 
原案ジョン・フランシス・デイリー 
ジョナサン・ゴールドスタイン 
ジョビー・ハロルド 
出演エズラ・ミラー 
ベン・アフレック 
マイケル・キートン 
サッシャ・カジェ 
マイケル・シャノン 
ロン・リヴィングストン 
マリベル・ベルドゥ 
キアシー・クレモンズ 
アンチュ・トラウェ 
タイトルとURLをコピーしました