●こんなお話
一晩だけどんな犯罪もオッケーの法律が初めて施行された日の話。
●感想
物語の舞台は、初めて“パージ”という法律が試験的に導入されたニューヨーク、スタテン島。政府が一晩だけ殺人を含むあらゆる犯罪を合法とする実験を行うことにより、貧困層の人々は金銭的報酬を条件にその実験に参加するか否かの選択を迫られることになります。パージを支持する側と反対する側が街中で衝突し、緊張感のある空気がじわじわと広がっていく中、物語は主人公の姉弟、そして姉のかつての恋人でありギャングのボスである男の視点を中心に進んでいきます。
序盤は、パージが施行される前のスタテン島での穏やかながらどこか張りつめた日常が丁寧に描かれていきます。初めてこの制度を体験する人々の不安や、政府の意図が透けて見える報道、若者たちの軽はずみな挑戦心などが交錯し、日常と非日常の境界線が少しずつ曖昧になっていく過程が印象的でした。暴力が許される“その日”が近づくにつれ、人々の表情や会話にも緊張がにじみ出てくるのを感じさせる演出は見応えがあったと思います。
いよいよパージが始まると、政府は制度の盛り上げを図るため、実は傭兵を民間人としてスタテン島に送り込んでいたことが判明します。つまり、ただの市民同士の暴力ではなく、裏で仕組まれた国家レベルの暴力推進が仕掛けられていたのです。しかしその暴力に対して、街のギャングたちが黙っていません。重火器を手にし、政府の傭兵たちを次々と倒していくギャングの姿は強烈で、街を支配する力のバランスが一瞬で崩れていくさまに興奮を覚えました。中でも、ナイフ一本で訓練された傭兵をなぎ倒すシーンには圧倒されました。
ただ、主人公が目につけるコンタクトレンズに関しては、光るという演出以上の意味合いがいまひとつ掴めず、何のための仕掛けだったのか最後までよくわかりませんでした。ビジュアルとしての印象は強かったのですが、物語との関わりが薄く感じられたのが少し惜しかったです。
また、ギャングのボスがタンクトップ姿で重武装し、単身ビルに乗り込んでいくアクションはかなり迫力がありました。ただし彼の過去や、なぜそこまで戦闘能力が高いのかといった説明がほとんどなく、物語の中での位置づけやドラマ性が薄れてしまっていたようにも思います。とはいえ、彼の動きにはヒーローとしてのカリスマ性があり、アクションを見せるという点においては魅力的なシーンであったことは確かです。
全体として、社会実験としての“パージ”がどのように街を変えるのか、そして人々の心をどう動かすのかというテーマがしっかりと描かれていた一作でした。暴力と選択、正義と生存が複雑に交差する中で、それぞれのキャラクターがどんな選択をするのかに注目しながら見ると、作品の意図がより浮かび上がってくるように思います。
☆☆
鑑賞日:2021/09/13 NETFLIX
監督 | ジェラード・マクマリー |
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脚本 | ジェームズ・デ・モナコ |
出演 | イラン・ノエル |
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レックス・スコット・デイヴィス | |
ジョイヴァン・ウェイド | |
クリステン・ソリス | |
スティーヴ・ハリス | |
マリサ・トメイ |