●こんなお話
映画好きの少年が青年となって働くまでの映画と家族と同級生とかの話。
●感想
映画が好きで好きで仕方のなかった少年が、自分の家族や人生そのものを映画の題材にしていくようになる。そんなスピルバーグの自伝的作品は、まるで一編の長い記憶をたどっているような感覚の映画でした。
物語の始まりは、少年が両親に連れられて映画館で観た1本の作品。夢にまで見るほど強烈な体験をして、おもちゃの列車とフィルムカメラを買い与えられるところから、少年の“映画人生”が静かに始まります。おもちゃを演出し、家族を使って撮影をし、物語を形にしていく。そのうちに映画作りは生活の一部になっていきました。
父親には親友でもある同僚がいて、母親とも親しげ。引っ越しが決まっても母の強い希望でその親友も一緒に付いてくる、というあたりで、この家族の人間関係がちょっとだけ歪んでいるのが感じ取れました。
祖母が亡くなって落ち込む母を励ますため、父から頼まれてキャンプの映像を撮ることになります。楽しい映像を家で編集していると、偶然に映っていた母と父の親友の様子から、2人の関係に疑いを持つことに。少年にとってはかなり衝撃的で、でもそれを“映像”で知ってしまうあたり、もう映画抜きでは真実を見つめられなくなっているんだなと感じました。
そのあと仲間と撮った戦争映画が地元で絶賛されて、両親やその親友も「アメージング」と絶賛。でも主人公の表情はなんとも言えず複雑。母とも衝突して背中を叩かれる場面があったり、思い切って浮気疑惑のフィルムを母に見せたりと、家庭内はかなり重たい空気になっていきます。
さらに父の転職でまた引っ越しが決まり、今度は親友は一緒に来ない。親友からカメラを無理やりプレゼントされて、「映画を作れよ」と言われるけど、受け取る気持ちにはなれないまま新天地へ。カリフォルニアの学校ではユダヤ人という理由でいじめにも遭うけれど、撮影を通してガールフレンドができたり、いじめっ子との距離感が変化したりして、また少しずつ立ち位置が変わっていきます。
特に印象に残ったのが、学校行事の映像を撮って、それを上映したとき。いじめのリーダーをヒーローのように映して、それを見た本人が逆に「バカにしてんのか?」と怒り出すシーン。主人公が「最低だけど、魅力的に映ってしまう」と言うくだりは、映画が持つ不思議さや残酷さを感じさせました。
最終的に母は父と離婚して親友のもとへ行き、父は「好きなことをしろ」と主人公を後押しします。最後には撮影所で憧れの映画監督に出会い、晴れやかな気持ちでスタジオを後にして終わっていきました。
全体としては、監督の記憶や家族の思い出を織り交ぜた、かなり個人的な作品だったと思います。ただ、「母の浮気を映像で編集して、それを見せる」というくだりは、日本人的な感覚ではちょっと異質というか、映画好きが行き着く先としてはやや怖い域に入っている印象もありました。
スピルバーグだからこそ最後まで興味を持って観られたけれど、知らない監督の作品だったら正直ここまでのめり込めたかどうか。劇中で主人公が撮るフィルムが長尺で描かれ、登場人物たちは感動したり涙を流したりしていましたが、観客としてはその熱量に乗り切れないところもありました。
知らないユダヤ人家庭の一生を見せられているような感覚に戸惑う部分もありつつ、子どもの目線から描かれる家庭の崩壊や学校生活のしんどさは、かなりリアルで怖さすらありました。家庭も学校も、映画の中でしか自分を保てない少年の姿がひたすら浮かび上がってくる、ある意味ホラー的な側面すらある作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2023/03/05 109シネマズ川崎
監督 | スティーヴン・スピルバーグ |
---|---|
脚本 | スティーヴン・スピルバーグ |
トニー・クシュナー |
出演 | ポール・ダノ |
---|---|
ミシェル・ウィリアムズ | |
ガブリエル・ ラベル | |
セス・ローゲン | |
ジャド・ハーシュ | |
ジーニー・バーリン | |
ジュリア・バターズ | |
ロビン・バートレット | |
キーリー・カーステン |