●こんなお話
飛行機の墜落事故が起こってテロだと判断されるけど本当の真実があると探る話。
●感想
飛行機のコックピットで交わされる日常会話から物語は始まる。機体の奥へとカメラがゆっくりと進み、乗客一人ひとりの様子を映し出していく。そして最後尾に達したそのとき、突然響く叫び声。平穏だったはずの空の旅が一変する、その瞬間に観客は引き込まれていく。
一方、別の場所では主人公が墜落したヘリコプターの音声データを解析している。彼は航空機のブラックボックスに残された情報を分析する音声専門家。だが、上司との意見の食い違いから信頼関係が揺らぎ、思わぬトラブルに巻き込まれていく。うっかり車に傷をつけてしまうなど、職場での立場も悪くなってしまう。
そんな中、新たに起こった旅客機の墜落事故。その調査にあたるはずだった上司が突然姿を消したため、主人公が調査の指揮を任されることになる。ブラックボックスの解析を進めた結果、コックピットに乱入したとされるイスラム系の乗客が原因だと判断され、記者会見が開かれ、事件は一旦終息したように見える。
主人公の妻は、航空機の安全認証を担う仕事をしており、業界内の有力者たちとも深く関わっている。夫婦それぞれの立場から事故に向き合っていたが、ある日、乗客が遺した留守番電話のメッセージが事故の時刻と食い違っていることを知った主人公は、真相は別にあるのではないかと疑い始める。
事故機のパイロットも、機体に搭載された最新の自動操縦システムに不安を抱いていたようで、主人公は詳しく話を聞こうと連絡を取るが、肝心なところで彼とは音信不通になってしまう。次第に情報は断片化し、謎は深まっていく。
やがて主人公は、妻のパソコンから自動操縦システムの内部情報を入手するが、その行動が原因で妻は機密漏洩の疑いをかけられ、職場を追われてしまう。激しく怒る妻との関係もぎくしゃくしていき、主人公の孤独な調査はさらに険しさを増していく。
自動操縦に問題があるのかを確かめるため、主人公は自らの手でテストを行うが、とくに異常は見つからない。そこに現れたのは、かつて飛行機をハッキングしたことで問題になった人物が乗客リストに含まれていたという新たな事実。彼を疑い、調査を進めようとするが、今度は主人公自身が職場から解雇されてしまう。
かつて誤報を報じた過去が災いし、報道関係者たちにも信用されず、追い詰められていく主人公。それでも真相を突き止めようと執念深く資料を見直すなかで、ヘリコプターの音声データに不自然な編集の痕跡があることに気づく。さらにその中に記録されていた位置情報をたよりに、失踪した上司の自宅近くの池へ向かう。
そこで発見されたボイスレコーダーに残されていたのは、上司が飛行機メーカーと癒着していた事実、そして音声データの改ざんに関わっていたという自白の記録。彼は航空業界の闇を知りすぎて姿を消していたのだった。最終的にその音声が公開され、事件の全容が明らかになる。
航空事故の裏側で行われる地道な調査の過程や、ブラックボックスの回収と解析という地味ながらも緊迫感あふれる現場描写は見応えがありました。専門職としての矜持を持ちつつも、組織との軋轢や家庭との板挟みに苦しむ主人公の姿には共感する部分が多く、人間ドラマとしても丁寧に描かれていたと思います。
一方で、物語のキーとなる犯人像やシステムの欠陥については、少々肩透かしを食ったような印象も受けました。特に原因がハッカーのミスだったという展開には拍子抜けする部分もありましたが、ハラハラと緊張感ある展開に惹き込まれ、最後まで集中して観ることができました。映像の美しさや編集のテンポも心地よく、2時間弱を飽きずに楽しめる一本だったと思います。
☆☆☆☆
鑑賞日:2023/03/04 WOWOW
監督 | ヤン・ゴズラン |
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脚本 | ヤン・ゴズラン |
シモン・ムーテルー | |
ニコラ・ブーヴェ=ルヴラー | |
ジェレミー・ゲーズ |
出演 | ピエール・ニネ |
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ルー・ドゥ・ラージュ | |
アンドレ・デュソリエ | |
セバスチャン・プドルース | |
オリヴィエ・ラブルダン |