●こんなお話
老芸術家と彼を支えようとする若い女性の話。
●感想
香川県のローカル鉄道・琴電をモチーフにしたご当地映画です。でも、ただの「香川よいとこ一度はおいで」的な観光PR映画では終わっていなかったです。しっかりと物語があって、香川の風景や歴史に根ざしながら、人と芸術、過去と今、そして人の心をつなぐ映画だったと思います。
物語は、香川の役所に勤める女性が、有名な芸術家を招いて大規模な回顧展を企画するところから始まる。ところがこの芸術家、突然失踪したかと思えばキャバクラで大暴れしたり、ついには展示そのものを中止しようとしたりと、かなりのトラブルメーカー。主人公も、そんな彼の自由奔放さに振り回され、次第にうんざりしていく。
でも2人をつなぐ共通点は“切り絵”。そして芸術家がふと取り出した懐中時計にまつわる話をきっかけに、物語は本筋へと動き出す。その懐中時計の持ち主を探す過程で、時間は1960年代に飛ぶ。そこでは芸術家の若かりし頃と、ある女性との出会い、恋、そして別れが描かれる。その女性を演じる中村ゆりさんがとても素晴らしく、静かな存在感と深みのある演技が印象的でした。
時計のルーツをたどる旅を経て、後半は芸術家と主人公が琴電そのものを“アート”にしようと動き出す。実際に運行の合間をぬって芸術イベントを開催しようとするのだが、その“合間”がものすごく短いのが笑えるし、「うどん県、それだけじゃない香川県」という自虐っぽい標語も絶妙で、ユーモアも効いていました。
そしてクライマックスでは、琴電に乗りながら、太平洋戦争や東日本大震災など、日本の激動の時代を生きた人々の感情が重なり合っていきます。少しファンタジーに振り切っても面白かったかもしれないけれど、抑制された演出がかえって作品全体のトーンを美しく保っていたと思います。
物語の最後では、芸術家のかつての恋、そして主人公の現在の恋がどうなるのかが描かれる。でもそこはあくまで“おまけ”のような感じで、メインはやはり芸術と時間、人と人をどうつなげていくかというテーマだったと思いました。
一番印象に残ったのは、ミッキー・カーチスさんと井上順さんがギターとハーモニカでセッションする場面。まさに人生の先輩たちが奏でる、時間を超えた音楽の力が感じられて、とてもかっこよかったです。車窓から流れる風景と、人の気持ち、時間の流れを丁寧に映した、観てよかったと思える一本でした。
☆☆☆
鑑賞日: 2013/06/01 テアトル新宿
| 監督 | 金子修介 |
|---|---|
| 脚本 | 港岳彦 |
| 出演 | 木南晴夏 |
|---|---|
| ミッキー・カーチス | |
| 中村ゆり | |
| 木内晶子 | |
| 鈴木裕樹 | |
| 近江陽一郎 | |
| 岩田さゆり | |
| 馬渕英俚可 | |
| 池内ひろ美 | |
| 青山草太 | |
| 小林トシ江 | |
| 桜木健一 | |
| 螢雪次朗 | |
| 木下ほうか | |
| 宍戸開 | |
| 水野久美 |


