●こんなお話
9年前の障がい児誘拐事件と探偵殺害事件を追うなかで、子どもと家族をめぐる過去が明らかになる話。
詳細ネタバレあらすじ
私立探偵の米本洋一が何者かに殺害される。酒に浸りながら探偵を続ける佐竹三雄、佐竹の助手として働くことになった中野聡子、そして依頼人から金を取る悪徳探偵として活動していた米本の姿が、時間を前後させながら描かれる。
佐竹は米本が残した資料のなかから、一枚の子どもの写真を手に入れる。写真に写っていたのは障がいのある子どもだった。佐竹と聡子が写真について調べると、9年前に起きた新生児誘拐事件へとつながっていく。
9年前、病院から障がいのある子どもが姿を消した。誘拐された子どもは匠という名前だった。調査を進めるうち、米本が殺害される二日前、一人の女性と会っていたことが分かる。その女性は尋津民恵であり、民恵は9年前に誘拐された匠の母親だった。
さらに佐竹と聡子は、明野という男の存在を知る。米本は明野と接触しており、明野から金を取ろうとしていた。佐竹たちは、米本が明野を脅している最中に殺害された可能性を考える。
佐竹自身にも、障がいのある子どもに関する過去があった。佐竹には障がいのある息子がいたが、過去の事故によって息子を死なせていた。その出来事の後、妻の由紀は心療科へ入院する。佐竹には観月という娘もいたが、父娘は疎遠になっていた。
聡子も家族に関する過去を抱えていた。聡子は夫からの暴力を受けていた娘を守ろうとして夫に傷害を負わせ、その事件によって娘の親権を失っていた。
佐竹と聡子が9年前の誘拐事件を追ううち、明野が誘拐された子どもを自宅で育てていることが分かる。その子どもは現在、新と呼ばれていた。佐竹たちは明野の家を監視するため、盗聴器を仕掛ける。
佐竹と聡子は明野の生活を監視する。明野は新と二人で暮らしており、日常生活のなかで新の世話を続けていた。
ある日、民恵が明野の家を訪れる。佐竹と聡子は、民恵、明野、米本の関係について調べ始める。
明野は自分が監視されていることに気づいていて。ある夜、明野は聡子に声をかけ、佐竹と聡子を居酒屋へ連れて行く。そこで明野は9年前に起きた出来事を話す。
明野と妻の昌美には子どもがいなかった。ある日、明野は病院で、民恵が廊下のベッドに子どもを寝かせ、洗面所へ向かう場面を目撃する。明野は民恵がその場を離れている間に、子どもを連れ去った。明野は、連れ去った子どもに障がいがあることを知らなかった。子どもは匠だったが、その後、新と呼ばれるようになる。
昌美は新の世話を始め、新の生活や成長について記録を残すようになる。しかし、昌美は交通事故に遭って死亡する。昌美の死後、明野は新と二人で暮らすことになる。明野は新の世話を続ける。
聡子は民恵に接触し、新を引き取るよう話をする。そして、明野が残していた新の育児記録を民恵に見せる。佐竹は明野と新を連れて病院へ行き、新の診察を受けさせる。民恵は新を引き取ることを決める。
その頃、米本殺害事件についても犯人が判明する。米本を刺したのは米本の息子だった。米本は息子に刺されて致命傷を負う。しかし、死ぬ前に息子へ疑いが向かないよう、事件現場に残った証拠を消そうとしていたことが分かる。
明野は9年前の誘拐事件について自首する。新は民恵に引き取られる。その後、3年が経過する。明野は収監された後、出所するが、その後の行方は分からなくなり、民恵は新と3年間を過ごしたことが語られる。 佐竹は以前と変わらない生活を続けている。聡子のナレーションによって、それぞれの人物のその後が語られ、物語はおしまい。
●感想
豪華な出演者がそろった作品だけに、俳優同士の芝居のぶつかり合いが大きな見どころでした。登場人物同士が一対一で向き合って会話をする場面が多く、それぞれの人物が抱えている事情が言葉によって少しずつ明らかになっていきます。扱っている題材も子どもや家族、障がいなどに関わるため、軽い気持ちで見られる内容ではありませんでした。会話の場面にも独特の緊張感があり、見終わった後にはかなり体力を使ったような感覚が残る作品でした。
特に佐藤二朗さんの演じる米本は印象に残りました。物語が進むにつれて過去や家族との関係が明らかになっていきます。登場人物のなかでは、個人的に米本というキャラクターが一番魅力的でした。
一方で、子どもを育てる責任が、なぜ女性側に集中していくのかという部分には引っかかりました。明野と昌美の関係でも、最初に新の世話を始め、生活の記録を残していくのは昌美です。明野はその後、新の世話を続けることになりますが、物語のなかでは子育てや介護を女性が担う場面が目立ちます。
民恵についても同じように感じました。最終的に新を引き取るかどうかを民恵に求める流れになりますが、新の実父については大きく扱われません。聡子が民恵へ働きかけ、新を引き取るよう説得する展開にも、少し疑問が残りました。
佐藤二朗さん演じる米本と、満島ひかりさん演じる聡子が、黒木華さん演じる民恵に対して新を引き取るよう話をする流れを見ると、なぜ民恵だけが子どもを引き取るかどうかを決める立場になるのかと考えてしまいました。
もちろん、民恵が新の実母であるという事情があります。しかし、子どもに関する問題を解決する役割が女性側に集中しているようにも見えました。民恵の夫や新の父親について、さらに話を掘り下げることもできたのではないかと思います。
物語の構成についても、少し合わない部分がありました。冒頭から佐竹、聡子、米本の場面が時間を前後させながら描かれます。酒を飲んでいる佐竹の姿や、突然起き上がる佐竹、聡子の場面が繰り返され、現在と過去の出来事も入り乱れていきます。
中島哲也監督らしい特徴的な編集やテンポを意識した構成なのだと思いますが、個人的にはこの時間が前後する演出によって、物語への興味が途中で途切れてしまいました。
事件の内容自体は、米本殺害事件と9年前の誘拐事件がつながっていくため、先が気になる構成になっています。しかし、場面が頻繁に切り替わることで、今どの時間の出来事を見ているのか整理することに意識が向いてしまいました。
その結果、物語に集中するよりも、断片的な場面をつなぎ合わせながら見る時間が続いた印象です。ハイテンポな編集が作品の勢いにつながる部分もありますが、個人的には興味を持続させるより、途中で集中が切れる原因になっていました。
そして、最後まで見て最も疑問が残ったのは、民恵が新を引き取る決意をした理由です。聡子が民恵に接触し、新を引き取るよう説得します。そして、明野や昌美が残した新の育児記録を民恵に見せることで、民恵は新を引き取ることになります。
ただ、民恵が具体的に何をきっかけにして考えを変えたのかは、個人的には十分に理解できませんでした。育児記録を読んだことが大きな理由だったのか、聡子から説得されたことが理由だったのか、それとも新と直接接するなかで考えが変わったのか。その過程をもう少し具体的に描いてほしかったです。
扱っている題材が非常にデリケートであり、登場人物たちにもそれぞれ家族に関する過去があります。そのため、俳優たちの熱量ある芝居を見続けるだけでも、かなり濃密な作品になっています。
一対一の会話によって人物の過去や考えが明らかになる場面は多く、豪華キャストの芝居を楽しむ作品としては見応えがありました。佐藤二朗さんをはじめ、出演者それぞれの演技には強い印象が残りました。
ただ、時間を前後させる編集や構成については好みが分かれそうです。私の場合は、物語の核心となる事件よりも、場面転換の多さが気になってしまいました。また、新を誰が育てるのかという物語の重要な部分についても、民恵が新を引き取るまでの心境の変化を、もう少し丁寧に見たかった1作でした。
☆☆☆
鑑賞日:2026/09/05 イオンシネマ座間
| 監督 | 中島哲也 |
|---|---|
| 脚本 | 中島哲也 |
| 門間宣裕 | |
| 原作 | 打海文三 |
| 出演 | 西島秀俊 |
|---|---|
| 満島ひかり | |
| 黒木華 | |
| 宮藤官九郎 | |
| 毎熊克哉 | |
| 鈴木仁 | |
| 烏森まど | |
| 山崎七海 | |
| 唯野未歩子 | |
| 野呂佳代 | |
| 長井短 | |
| しんすけ | |
| 山下舜太 | |
| 諸角優空 | |
| 柴咲コウ | |
| 塚本晋也 | |
| 片岡鶴太郎 | |
| 佐藤二朗 | |
| 役所広司 |

