●こんなお話
座頭市があんまの師匠を訪ねるともう亡くなっていて、その娘さんが女郎屋で働いていると知って助け出そうとする。そこで更に出会うのは壺振り師の親子とも出会って、な話。
●感想
物語は、ある街にふらりと現れた座頭市が、ひと騒動を巻き起こしていく流れとなっている。壺振り師として登場する人物との出会いから物語は始まり、最初は渋みのある空気が漂う。市とこの壺振り師とのやり取りの中には、かつての時代劇らしい乾いた緊張感も感じられた。
しかし、時間の経過とともにこの人物の描き方は変化していき、渋さから次第に軽妙な方向に転じていく。会話のテンポや仕草がコメディ寄りになっていく様子には、少し戸惑いを覚える流れだった。さらにそのユーモアの部分が観ていてあまりしっくりこず、シーンごとに気持ちが入りきらないまま進んでしまうような感覚もあったように思います。
小林幸子さんが子役として登場するシーンも印象的でしたが、ややハキハキとした台詞回しが続いていて、どこか時代劇の空気とは異なる響きを持っていました。どうしても今の小林幸子さんの姿を思い浮かべてしまうというのもあり、その存在感が物語に没入する際のノイズとして作用してしまうこともありました。
悪役として登場する用心棒を加藤武さんが演じており、こちらは迫力ある立ち姿と表情が非常に魅力的で、画面に登場するだけで場が締まる感覚がありました。言葉数は少なくても、視線や佇まいに込められた圧が伝わってくるような存在感があり、観ていて気持ちが引き締まりました。ただ、その退場が意外と早かったこともあり、もう少し物語の中で引っ張ってほしかった気持ちも残りました。
中盤以降、話は徐々に騒がしくなっていき、細かな出来事が積み重なりながら終盤の斬り合いへと向かっていく。クライマックスでは、座頭市が一気に剣を抜いて周囲の敵をなぎ倒していく展開が待っていて、その迫力ある映像には見応えがありました。手持ちカメラによって座頭市の背後をぴたりと追いかけるカットなどは、臨場感が強く、アクションの魅力が詰まった時間になっていたと思います。
特にカメラワークの使い方や切り返しの編集によって、観客をその場に引き込もうとする意図が感じられました。勢いある構成により、たとえ物語の内容がやや平板でも、最後の戦いで全体が一気に締まるような印象を受けます。
「二段斬り」という要素も劇中で扱われていますが、具体的にどういったことなのかは少しぼやけており、あまり強調された描写はなかったように感じました。そのため、物語全体の中での意味づけが曖昧だった点は残ります。それでも、90分というコンパクトな尺の中で、定番の展開を丁寧に見せていくことで、しっかりと娯楽として成立している作品だったと思います。
全体としては、シリーズの中で繰り返されてきたお約束を守りつつ、映像的な面白さを新たに持ち込もうとする意図が感じられた一作でした。細かな部分に気になる点はあっても、短い時間の中で座頭市の魅力を再確認できる一本だったように思います。
☆☆☆
鑑賞日: 2013/12/21 DVD
監督 | 井上昭 |
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脚色 | 犬塚稔 |
原作 | 子母沢寛 |
出演 | 勝新太郎 |
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坪内ミキ子 | |
三木のり平 | |
加藤武 | |
春本富士夫 |
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