●こんなお話
父を死に追いやった汚職している政財界の人間たちに復讐しようとする男たちの話。
●感想
ホテルで結婚式が行われていて、外では記者たちが取材をしながら出席者たちの関係性を次々に解説していく冒頭。いきなり情報量が多くて面食らいますが、ここから物語がじわじわと動き始めます。披露宴直前になって、課長補佐が突然連行される事件が起こり、会場には一気に不穏な空気が広がる。しかも、5年前にも不正入札を巡って職員が自殺したという因縁の過去が語られた直後、披露宴の場で出されたケーキが、その自殺があった新庁舎の形を模したケーキだったことが判明し、会場は騒然とする。
検察が動き出し、関係者たちへの事情聴取が始まる。そんな中、自殺を図る者や失踪者が出てくるようになり、事件はどんどん不穏さを増していく。自殺しようとする課長補佐の前に現れるのが西。彼は課長補佐を説得し、偽の自殺報道を流してひとまず姿を消させる。
そして本作の主人公が本格的に動き出す。課長補佐に対して、どれだけ上司たちが薄情で無責任だったかを語り、自分の告別式を外から覗かせて、上司たちが適当なことを言っているのを録音で聞かせる。このあたりから、主人公の復讐劇が本格化していくのが見どころ。
続いて主人公は課長を標的にする。課長の行動を怪しく見せかけて、上層部に裏金横領の疑いを抱かせるように仕向ける。そしてある日、自宅へ帰る途中の課長の前に「死んだはず」の課長補佐が幽霊のように現れ、精神的に追い詰められた課長は次第に壊れていく。
主人公は仕事ばかりで毎晩帰宅が遅く、結婚したばかりの妻との関係も冷え気味。義兄が「妹は本当に幸せなのか」と不信感を抱くようになる。一方、主人公は課長を新庁舎に連れて行き、自分の出自や過去を語りながら自殺を促すが、殺しきれず、恐怖で廃人になった課長は病院送りになる。
その後、部長がかつて自殺した職員の妻を訪ねると、隠し子の存在が明らかに。さらにお通夜の写真に写り込んでいた主人公の姿が決定打となり、彼の暗躍がバレてしまう。しかも電信柱の陰から覗いていたという、詰めの甘さに思わず笑ってしまう一幕もあったり。
そして、主人公が本気で愛してしまった妻のもとに花を持って帰ると、正体がバレて逃走。最終的に部長とともに防空壕で監禁され、物的証拠の隠し場所を問い詰められる事態に。課長補佐は奥さんがかわいそうだと防空壕に連れてきてしまい、主人公は彼女の父の腐敗ぶりを語って「これしか方法がなかった」と訴える。物的証拠が揃い、記者会見で不正を暴露する流れに向かうが…。
帰宅した奥さんに父親が嘘をついて主人公の居場所を聞き出し、主人公は睡眠薬で眠らされる。そして目覚めたとき、兄に連れられて防空壕へ向かうと、すでに主人公は殺されていた。証拠も失われ、すべてが元通りになってしまう。そして浮かび上がるタイトル、「悪い奴ほどよく眠る」。
序盤の結婚式で人物相関図が一気に展開されたときは情報の波に圧倒されましたたが、主人公の目的が明らかになってからはリベンジ劇としてどんどんテンポよく進んでいきました。日本社会の腐敗や汚職がテーマなのに、エンタメとして成立しているのがすごいです。悪人たちを追い詰めていく三船敏郎の存在感が圧倒的で、ヒーローのような迫力と冷静さがかっこよかったです。
上司の指示ひとつで部下が自殺し、巨悪はのうのうと生き延びるという社会の闇。そしてラストで加藤武が絶叫する「これでいいのか!」のインパクト。香川京子演じる妻の悲しさ、良かれと思ってとった行動がすべて裏目に出る不条理さも胸に残ります。さらに猟銃をぶっ放す三橋達也のクレイジーさや、殺し屋を演じる田中邦衛のインパクトも強烈。重いのに、笑えるところもある、そんな稀有な1本でした。
☆☆☆☆
鑑賞日:2022/09/18 U-NEXT
監督 | 黒澤明 |
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脚本 | 小国英雄 |
久板栄二郎 | |
黒澤明 | |
菊島隆三 | |
橋本忍 |
出演 | 三船敏郎 |
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加藤武 | |
森雅之 | |
志村喬 | |
西村晃 | |
藤原釜足 | |
三津田健 | |
松本染升 | |
山茶花究 | |
清水元 | |
三橋達也 | |
香川京子 | |
菅井きん | |
樋口年子 | |
笠智衆 | |
宮口精二 | |
南原宏治 | |
土屋嘉男 | |
中村伸郎 | |
田中邦衛 | |
峯丘ひろみ | |
賀原夏子 | |
藤田進 | |
三井弘次 | |
田島義文 | |
佐田豊 | |
沢村いき雄 |