●こんなお話
地震が起きる原因となる扉をする人たちの話。
●感想
主人公が子どもの頃に誰かに声をかけられる記憶の夢を見て、そこから物語は始まる。現在の彼女は叔母と二人で暮らしており、坂道を自転車で下りながら学校へ向かう途中、青年に「このあたりに廃墟はないか」と声をかけられる。気になって教えた廃墟を訪れると、水の中にぽつんと立つ扉を発見。扉を開くと夜空が広がり、通り抜けてもただの通路に戻ってしまう不思議な体験をする。さらにそばにあった石を引き抜くと、それが生き物のように逃げ出してしまう。怖くなって学校に戻るが、窓の外に煙のようなものを見つけ、誰も気づいていない現象に戸惑う。
煙が立ちのぼる廃墟へ戻ると、先ほどの青年が扉から溢れ出す巨大なミミズを必死に抑えていた。主人公も加わって扉を閉め、負傷した青年を家に連れ帰る。彼から、カナメイシという石で扉を封じなければ大災害が起きること、彼がその役目を担っていることを聞かされる。そこに猫の姿をした存在が現れ、人語を話し、青年を子ども用の椅子に変えてしまう。猫は主人公が解放してしまったカナメイシであり、主人公と青年はそれを追って旅に出る。
九州から四国へ船で渡るが猫を見失い、SNSの情報を頼りに神戸へ向かう。移動の道中で主人公は育児をしながら働く女性と出会い、彼女の子どもの世話を手伝う。また、原付に乗る同年代の女性と関わるなど、旅の中でさまざまな人々と触れ合う。一方で、各地で解放されてしまった扉を閉めるアクションが続き、その過程で主人公の幼少時代の記憶がよみがえり、喪失や心の傷が少しずつ浮かび上がっていく。
やがて東京に到着し、地下鉄に現れた扉を封じようとするが、青年は新たなカナメイシの役割を引き受け、ミミズを押さえ込む存在となる。青年を救いたい一心で主人公は彼の祖父を訪ね、かつて子どもの頃に異世界を訪れた自分の経験が鍵になると知らされる。青年の仲間が運転するオープンカーに叔母も同乗し、懐メロをかけながら宮城へと向かう。旅の途中で猫や巨大化した猫とも再会する。
主人公は故郷で幼少期に書いた絵日記を見つけ、自転車で家の跡地へと向かう。扉を開いて異世界に突入すると、猫が巨大化してミミズと戦い、主人公はカナメイシ化した青年を救い出す。やがて元のカナメイシだった猫が再びその役割を引き受け、ミミズを封印。主人公は子どもの頃の自分に声をかけ、元の世界に戻ることができる。青年は電車に乗り去っていき、主人公は日常へと帰還。再びあの日の坂道で青年と出会い、物語は一区切りを迎える。
作品全体は新海誠監督らしい美しい風景描写で、日本各地の景色を堪能できる観光映画的な魅力がありました。特に戸締りをするたびに挿入される印象的なメロディーは耳に残り、日常の一コマを壮大なアクションに仕立てて盛り上げる工夫は楽しく感じました。前半から中盤にかけては、全国を巡りながら災害を防ぐロードムービー的な面白さがあり、観客を引き込む力が強かったと思います。
一方で、中盤以降は主人公が青年を助ける動機と、自身の母親や叔母との関係性が掘り下げられていきますが、ここは個人的にはテンポが緩やかになり、退屈さを覚える場面もありました。クライマックスの異世界での戦闘も視覚的には迫力がありますが、何をどうすれば解決に至るのかがやや分かりにくく、ぼんやり眺める時間が多かったのも事実です。
また、SNSやスマホを頼りに主人公が日本を横断していく軽快さは現代的ですが、学生である彼女がどうやって資金を工面したのかといった現実的な部分にも興味が向きました。お母さんが裕福だったのか、アルバイトを頑張って貯めたのか、そんな背景に思いを馳せてしまうほど、旅のスケールは大きく感じられる作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2022/12/03 キネカ大森
監督 | 新海誠 |
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脚本 | 新海誠 |
原作 | 新海誠 |
出演(声) | 原菜乃華 |
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松村北斗 | |
深津絵里 | |
松本白鸚 | |
染谷将太 | |
伊藤沙莉 | |
花瀬琴音 | |
花澤香菜 | |
神木隆之介 |