●こんなお話
売れない役者の男が借金のためスマグラーと呼ばれるワケありの運び屋になって、凄腕の殺し屋だのヤクザだのの抗争に巻き込まれる話。
●感想
登場人物たちがそろいもそろって、どこか漫画のコマからそのまま飛び出してきたかのような濃密なビジュアルで現れて、まずその世界観に飲み込まれてしまう。髪型から衣装、立ち振る舞いに至るまで、すべてが記号的でデフォルメされたような印象を与えていて、その見た目のインパクトだけで最初の数分は圧倒されてしまう。
物語は、運び屋として仕事に失敗してしまった主人公を中心に進んでいき、彼の代わりに身代わりとして捕らえられる妻夫木聡さんの熱演が非常に印象的だった。直接的な暴力描写があるわけではないものの、顔の表情だけで痛みを伝えてくるような芝居で、観ているこちらにも緊張感が伝わってきたのは素晴らしかったです。個人的には、あえてその先を見せずに想像させる演出も魅力的だと感じる一方で、もっと暴力的な描写で突き抜けても面白かったかもしれないとも思いました。
スローモーションを多用したアクションの見せ方や、キャラクターの立て方、色彩と照明の美術設計など、映像的な魅力が詰まっていて、登場人物たちの存在そのものが画面のアクセントになっている。とにかく、見た目の強度が映画のテンションを高く保っているように感じました。
その中で、石井克人監督らしい独特のギャグがふんだんに織り交ぜられていて、これをどう受け止めるかで本作の印象が大きく変わってくるかもしれません。常連の我修院達也さん、島田洋八さんによる“いつものテンション”は健在で、物語の推進力というよりも一歩立ち止まって楽しむためのアクセントになっていた印象です。ただ、その勢いが強すぎて、観ている側の温度感とのズレが生まれる瞬間もあるように感じました。高嶋政宏さんのテンションも終始高めで、それに振り回されるような感覚を受ける場面もあったかもしれません。
松雪泰子さんが演じるキャラクターもゴスロリ衣装でビシッと決めて登場するのですが、なぜその格好なのか?という説明を求めるのは、この世界観においては無粋なのかもしれません。あらゆる設定が“そういうもの”として描かれていて、その勢いとテンションで押し切ってしまう力強さがあったと思います。
クライマックスで登場する殺し屋のビジュアルも圧巻で、背骨や内臓まで意匠化されたような造形美があり、ヴィランとしての魅力に満ちていました。彼に立ち向かう丈という兄貴分のキャラクターも、また別の意味でカッコよさに満ちていて、両者の対比が画面に映える瞬間も多くありました。
とはいえ、後半で拷問を受けたはずの妻夫木さんが比較的元気に動き回っていたり、チャプターごとの区切りが物語上どのような意味を持っていたのかなど、細かく見ていくとツッコミどころは多々あります。ただ、それらに対して目くじらを立てるよりも、映画全体が持っているエネルギーに身を任せて楽しむ作品だったのだと思います。理屈よりもノリと勢いで突き抜けていくような一本でした。
☆☆☆
鑑賞日:2014/03/10 Blu-ray
監督 | 石井克人 |
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脚本 | 石井克人 |
山口雅俊 | |
山本健介 | |
原作 | 真鍋昌平 |
出演 | 妻夫木聡 |
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永瀬正敏 | |
松雪泰子 | |
満島ひかり | |
安藤政信 | |
阿部力 | |
我修院達也 | |
テイ龍進 | |
島田洋八 | |
高嶋政宏 | |
小日向文世 | |
清川均 | |
松田翔太 | |
大杉漣 | |
津田寛治 | |
寺島進 |