映画【四月物語】感想(ネタバレ):北の雪景色から東京キャンパスへ|淡い光に包まれた青春映画

shigatsu-monogatari
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●こんなお話

 大学入学のため北海道から東京へやってきた人の話。

●感想

 雪景色の駅で電車を待つ家族の姿から物語は始まる。主人公は北海道から東京の大学に進学するため、この雪深い故郷を離れる。桜が舞う季節には引っ越し業者が訪れ、荷物を運び出す。期待と不安を胸に、主人公は新生活への一歩を歩み始める。

 東京の大学に入学すると、新入生の自己紹介やクラスメイトとの出会いが続くものの、誰かに名前を覚えてもらうのは難しい。次第に周囲の顔ぶれにも慣れてきたある日、自転車を買って街を駆け回る。下町の路地や商店街を抜け、本屋に立ち寄ってはさまざまな本に目を通す。映画館で時代劇を観賞したり、釣りサークルに入ってフライフィッシングの練習をしたりと、忙しくも充実した日々が流れていく。 

 やがて、回想シーンで北海道時代に片思いしていた先輩の存在が明かされる。あの先輩が東京の本屋でアルバイトをしていることを知った主人公は、本屋に足繁く通い始める。ある雨の日、傘を忘れて雨宿りしていると大学の教授風の男性が優しく傘を貸してくれ、その恩返しに本屋の先輩から傘を借り受け、教授に返す。その短い交流を通じて、主人公の胸に淡いときめきが芽生えておしまい。

 ストーリーは「北海道から東京の大学へ移り、新生活を送るだけ」というシンプルな内容を淡々と紡いでいく。新生活への不安とワクワク感、知らない街を自転車で走る楽しさ――そのすべてが無理なく画面越しに伝わってくる。釣りサークルの先輩や同期と練習に励む土手の風景には、誰もが憧れるキャンパスライフの甘酸っぱさが漂ってました。

 本屋で本棚の合間から差し込む光、本の背表紙に映る淡い反射。フライフィッシングのリールを覗き込んだときに顔に当たるやわらかな光――篠田昇のカメラは常に優しい光に包まれ、まるで現実世界よりも美しいフィルターを通して東京の日常を映し出してました。

 とはいえ、片思いだけで大学を選んでしまう主人公の勢いには驚かされます。けど、その衝動こそが青春の瑞々しさであり、淡い映像美と光の空気を全身で浴びる映画体験につながっていると思いました。名前を呼ばれなくても、自転車のペダルをこぎ続けることで、新しい世界と友情、そして恋の予感が少しずつ開けていく映画だと思いました。

☆☆☆☆

鑑賞日:2012/09/15 Blu-ray 2024/05/18 U-NEXT

監督岩井俊二 
脚本岩井俊二 
出演松たか子 
田辺誠一 
藤井かほり 
留美 
加藤和彦 
光石研 
江口洋介 
石井竜也 
伊武雅刀 
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