映画【SHADOW 影武者】感想(ネタバレ):美と遊び心が交差する、影武者の物語

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●こんなお話

 隣国と戦っているうちにみんながみんなで殺しあう話。

●感想

 物語は、乱世の中で影武者として生きることになった男を中心に展開していく。ある国の主君が重病の身を隠し、敵国に対抗するために影武者を立てることを決断。その影武者は、かつて敵国との戦で家族を失った男で、身分を偽りながら生きることになる。主君はその過去を知りながらも、政略の道具として彼を利用する。一方で、影武者は主君の美しい妻や家臣たちと接していくうちに、次第に自分の役割以上の感情を抱えていく。物語は、敵国の脅威が迫る中、影と実の立場の曖昧さが濃くなるにつれ、登場人物たちの内面も揺らぎを見せていく。

 映像は、まるで墨絵の世界に足を踏み入れたような印象で、衣装やセット、小道具の隅々に至るまで緻密に仕上げられていました。特にライティングと構図の美しさには目を奪われる場面が多く、視覚的な完成度の高さは素晴らしいものだったと思います。スタッフの方々の丁寧な仕事ぶりと、世界観に対するこだわりが画面全体から伝わってきて、時代劇でありながら一枚の美術作品のような印象すらありました。

 アクション面でもユニークなアイデアが光っており、敵国の剛腕に立ち向かう手段として傘を武器に用いるという設定はとても印象的でした。特に終盤での潜入作戦における傘アクションの演出は、真剣な場面の中にどこか可笑しみもあり、観ていて純粋に楽しかったです。スライディングで滑り込むような場面には思わず笑ってしまいました。そうした遊び心があることで、重厚な物語の中に程よい軽さも加わっていたように感じます。

 ただ物語の進行としては、登場人物の数が限られており、また序盤は会話中心で設定を追う展開となっていたため、少しとっつきにくさを感じました。特に国名や人名が次々に登場するので、世界観に慣れるまでにやや時間がかかる印象でした。登場人物の配置も、忠義の影武者、冷徹な主君、美しい正室、権力に翻弄される家臣と、それぞれに意味を持った役割で並べられていたと思いますが、やや定型的で深い掘り下げが少なかったように思います。

 影武者である主人公についても、本物とバレるかどうかという緊迫感よりも、主君と同じ傷を体に刻むことで一体感を作るという描写が中心となっていて、影武者という題材の面白さを活かしきれていなかったようにも感じました。演じている俳優がエンドロールで同一人物と分かったこともあり、本人と影武者の違いという部分があまり明確に映像上で描かれていなかったのかもしれません。

 主君の妻に対して影武者が抱く葛藤や抑え込まれた感情も丁寧に描かれていたと思いますが、個人的にはもう少し二人の間にある情緒の揺れを掘り下げてほしかったです。彼女の内面がやや見えにくく、観客として感情を重ねるのが難しく感じる部分もありました。

 都督と呼ばれる人物も登場し、病に伏しながらも人望を集める存在として物語を支えていましたが、その人物像についても、なぜ彼が慕われているのか、もう少し描かれていればより説得力が増したように思います。物語としては、感情の起伏がやや平坦で、それが映像の美しさに比して物語が淡く感じられた一因かもしれません。

 終盤は一転して大きな戦闘シーンへと突入し、それまでの静かな作風から一気にテンションが上がります。傘を用いた戦術や、それぞれのキャラクターのアクションが盛り込まれ、映像としての迫力もありました。ここだけトーンが異なるような印象も受けましたが、勢いのあるシーンとして観応えはありました。

 クライマックスの後も、登場人物たちの宴や語らいが続いていき、戦いのあとに残ったそれぞれの思いが言葉として表現されていきます。影武者としての生き方や、家族と離れ離れになった過去など、本人の背景にも触れられますが、どこか事務的な印象が残る語られ方で、映像の美しさとの温度差があったのも印象的でした。

 全体として、映像美とユニークなアクションが印象に残る作品であり、影武者という題材から派生する人間模様や葛藤に、もう少し深く入り込めていたら、さらに惹きつけられる内容になっていたかもしれません。それでも、美術や衣装、照明といった技術的な完成度は非常に高く、一つの世界を丁寧に作り上げたスタッフの力量が随所に感じられる作品だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日: 2019/09/10 TOHOシネマズ川崎 2023/01/03 Amazonプライム・ビデオ

監督チャン・イーモウ 
脚本チャン・イーモウ 
リー・ウェイ 
出演ダン・チャオ 
スン・リー 
チェン・カイ 
ワン・チエンユエン 
ワン・ジンチュン 

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