●こんなお話
視力障害者の元警官の主人公が男子高校生と一緒に猟奇殺人犯を追いかける話。
●感想
猟奇殺人をテーマにしたスリラー映画で、邦画としては比較的珍しい過激な描写が印象的でした。被害者の遺体写真や遺体処理の場面など、思わず目を背けたくなるほど容赦ない描写が随所にあり、そうしたリアルな演出が作品の緊張感を高めていました。
構成面においてもユニークな特徴があり、前半から中盤にかけては犯人を追い詰めていくサスペンスとして展開し、終盤では一転してスラッシャーホラーのような恐怖と緊張のクライマックスが用意されており、変化のある流れで最後まで飽きずに鑑賞できました。
ただし、邦画特有の「ヌルさ」が時折見られ、シリアスな物語に対して没入を妨げるような演出もありました。冒頭で主人公が弟と車に乗って事故に遭うシーンでは、弟が車内に落としたアクセサリーを運転中に無理に拾おうとして事故の原因になるという展開ですが、なぜそこで無理に拾わねばならなかったのか、その行動の必然性が薄く、少々ご都合主義的に感じられてしまいました。また、事故シーン自体も昔ながらの邦画で見られるような、車が派手に横転する演出で、どこか既視感があり、新鮮味に欠けていたのも否めません。
さらに、登場人物の行動にもリアリティが欠ける場面がありました。たとえば、主人公の相棒である高校生が犯人に車で襲撃されるアクションシーンでは、背景に映る“ゴミの山”のような場所に身を隠す描写がありますが、日本の道路環境としてあのようにゴミが山積みにされている光景は現実的ではなく、舞台設定に違和感を覚えました。
物語中盤では真犯人が明らかになりますが、その後の展開にも突っ込みどころが残ります。たとえば主人公がスマートフォンを駆使してサポートを受けながら逃走するシーンは現代的で面白い演出でしたが、舞台となる駅に乗務員も乗客も一切おらず、主人公と犯人の二人だけという状況はやや不自然に感じられました。また、犯人がただゆっくり歩くだけで追い詰めてくるという緊張感のなさや、唐突に乗務員が現れるタイミングにも疑問が残りました。
登場人物の言動に対する不自然さも顕著で、たとえば定年間際のベテラン刑事が、犯人に「被害者はあちらにいる」と言われて素直に向かい、何もないところで「どこだ!」と叫ぶなど、ベテランらしからぬ行動が印象的でした。さらに、応援を待つように指示されていたにもかかわらず一人で突入し、あっさりとやられてしまう警察の描写には、観客として思わず苦笑いしてしまう場面も。
加えて、真犯人が明らかになった際も、それが物語上で「驚くべき人物」ではなく、むしろ「あれ?誰だったっけ?」と思わせるような存在感の薄いキャラクターだったため、ミステリーとしてのカタルシスもやや弱く感じられました。
クライマックスでは、主人公が視力障害を持っている設定を活かして暗闇で犯人と対決するという展開になり、名作『暗くなるまで待って』や『座頭市』のようなダイナミックな暗闇バトルを想像させる導入でしたが、実際には犯人があっさりスマホのライトを点けて行動するなど、暗闇を活かした演出が中途半端で、やや肩透かしに終わった感が否めませんでした。
さらに終盤、猟奇的に女子高生たちの体のパーツを集めていた犯人が、突如として別の人物(中年男性)を殺害し「これで頭は揃った」と語る場面では、それまでの動機や連続性が一気に崩れ、観客としても「では今までの被害者は一体なんだったのか?」という疑問が残る不条理な展開となっていました。
全体としては、ショッキングな描写やジャンル的な変化、現代的なサスペンス要素が織り込まれた意欲作ではありましたが、細部の作り込みや演出の精度において課題が見える作品でもあったと感じました。
☆☆☆
鑑賞日: 2019/10/15 丸の内TOEI
監督 | 森淳一 |
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脚本 | 藤井清美 |
森淳一 |
出演 | 吉岡里帆 |
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高杉真宙 | |
大倉孝二 | |
浅香航大 | |
酒向芳 | |
松大航也 | |
國村隼 | |
渡辺大知 | |
栁俊太郎 | |
松田美由紀 | |
田口トモロヲ |
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