●こんなお話
脳死肝移植に挑む外科医の話。
●感想
物語は、火葬場での葬儀の場面から始まります。故人を偲ぶ人々の中に遺族である息子の姿があり、彼は遺品の中から父親の日記を見つけます。その日記を通じて語られる回想が、映画本編のメインストーリーとなります。
当麻医師は、廃れてしまった地方の病院に新たに配属されます。彼はこれまでの慣習や体制にとらわれず、ただ「患者を救うこと」を第一に考え、難しい手術にも果敢に挑んでいきます。そんな姿に周囲のスタッフたちは最初は戸惑いながらも、次第に心を動かされ、医療現場全体が変化していきます。
看護師の浪子はシングルマザーで、どこか気だるげだった彼女も、当麻の真摯な姿勢に影響され、仕事へのやる気を取り戻し、医療現場での自分の在り方を見つけていきます。映画は彼女の視点から当麻医師の行動を見つめていくモノローグ形式で進行し、観客は彼女の視線を通して主人公の魅力や凄みに気づかされます。
また、過去の医療事故に失望して現場を離れようとしていた若手医師に対し、当麻が「医療を続けてほしい」と声をかけ、海外留学を提案するなど、患者だけでなく医師としての仲間にも希望を与える存在として描かれます。
物語のクライマックスでは、市長が喀血で倒れ、緊急手術が必要となる中で、中学生の脳死患者からの生体肝移植を行うという、極めてセンシティブかつ法的にもグレーな判断を当麻が下します。周囲はマスコミや警察の介入もあり、失敗すれば罪に問われるというリスクから猛反対しますが、彼はそれでもなお命を救うために手術を強行し、見事成功を収めます。
この場面では、ドナーの母親が屋上で肝臓提供を願うシーンが真っ白な映像で描かれ、まるで天国のような静寂と神聖さが漂う名シーンとして印象的です。
手術シーンは非常にリアルで、内臓の描写もごまかしなくしっかりと描かれており、見る人によってはグロテスクと感じるかもしれませんが、医療の現実に向き合うという本作のテーマを象徴する重要な要素でもあります。肝臓に血液が流れる瞬間には、医療チームと同じように観客も感動を覚えることでしょう。
堤真一さん演じる当麻は、無口でお金にも女性にも興味を示さず、手術中には都はるみの曲をかけるという一面もあり、ユニークさと人間味が絶妙に混ざった魅力的なキャラクターです。浪子との最初の出会いも、彼女が雑に手術器具を扱ったことを注意されるという形で始まり、距離が縮まっていく描写も丁寧に描かれています。
物語全体は、西部劇のように「主人公がやってきて、町を変えて去っていく」という古典的な構造を持っており、非常にわかりやすく感情移入しやすいストーリー展開となっています。
一方で、敵役となる古参医師たちはややステレオタイプな印象があり、物語の深みを感じにくい点もありますが、全体としては「医師とは何か」「命を救うとはどういうことか」という大きな問いを観客に投げかける、非常に意義深い医療映画となっています。
☆☆☆☆
鑑賞日:2011/03/05 イオンシネマ多摩センター 2024/03/23 Hulu
監督 | 成島出 |
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脚本 | 加藤正人 |
原作 | 大鐘稔彦 |
出演 | 堤真一 |
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夏川結衣 | |
吉沢悠 | |
中越典子 | |
矢島健一 | |
成宮寛貴 | |
松重豊 | |
平田満 | |
余貴美子 | |
生瀬勝久 | |
柄本明 |