●こんなお話
いろんな人たちの恋愛模様の話。
●感想
『イブの恋人』。玉木宏さん演じるウェブデザイン会社の取締役と、劇団員の女性との出会いと交流を描いています。バリバリのビジネスマンとして日々部下に厳しく接する主人公は、仕事において一切の妥協を許さず、その姿勢は最初から最後まで一貫しています。特に、部下に対する接し方が印象的で、ストーリーが進む中でもその姿勢が変わることがないのが特徴的でした。また、秘書に対しては「泣ける映画」や「笑える映画」といったジャンル指定のみでDVDのレンタルを任せるなど、一風変わった人物像も描かれていました。
ある日、高級レストランで出会った女性と何気ない会話の中、彼女が「ここは彼氏と来るはずだったお店」と嘘をつく場面から物語は少しずつ動き始めます。その後も偶然が重なり、再び別のレストランで顔を合わせた二人。謝罪の気持ちを伝える主人公に対し、女性は劇団に差し入れを要求し、それをきっかけに「実は彼氏が亡くなったというのは嘘だった」と明かします。そこで主人公は厳しい言葉を投げかけ、二人は離れることになります。
その後、女性から届いた手紙をきっかけに、主人公がクリスマスの街を駆け出す展開へと進みます。そして、思いがけず、秘書が選んでいたDVDが実はヒロインのアドバイスによるものだったという偶然も明かされ、東京駅で再会した二人が初めてのデートとして一緒に『カサブランカ』を鑑賞するという流れになります。作品の舞台設定や偶然の連続など、物語としての整合性よりも雰囲気重視のドラマとして描かれている印象を受けました。
『遠距離恋愛』では、仙台で復興関連の仕事をしている男性と、東京でウェディングドレスのデザインに携わる女性の遠距離の恋模様が描かれます。仕事に追われる二人の間にすれ違いが生じ、互いに相手の気持ちが見えなくなっていく過程が丁寧に描かれていました。恋人を取り巻く環境や仕事の都合から予定が合わず、ついには先輩との関係を疑ってしまい、衝突へとつながります。けれども、クリスマスの日に仕事をやり遂げた女性に届く彼からのメッセージ。東京駅でのプロポーズによって、二人の関係に一つの答えが提示されます。
「遠距離結婚しよう」というセリフに少し面食らいつつも、最後には穏やかな雰囲気で物語が締めくくられていました。仙台という土地の設定や、クリスマスにファッションショーが開かれることの現実味など、細かなところにいくつか気になる点もありましたが、二人の関係を支える思いやりのようなものはしっかりと描かれていたように感じました。
『二分の一成人式』。新幹線の運転士である父親とその息子を中心にした親子の物語が描かれます。仕事を辞めた父親の行動に戸惑う息子は「どうして辞めたのか」と尋ねますが、父ははっきりと答えません。実は父親は余命3ヶ月と告げられた病に冒されていて、限られた時間の中で何を大切に生きるのかというテーマが込められています。
ただ、病気の具体的な描写がほとんどなく、「お腹が痛い」といった表現だけで進んでいくため、父の抱える現実の深刻さが今ひとつ伝わりづらい部分もありました。しかも、命の残りを知った後の描写も静かで、親子の関係性に大きな転換があるわけでもなく、二分の一成人式に出席して感動的な作文を聞くという流れで収束していきます。何かもう一つ踏み込んだ関係性の描写があるとより深く印象に残ったかもしれません。
『遅れてきたプレゼント』では、東京駅でかつて恋人と待ち合わせをしていたケーキ屋の女性が登場します。49年前、駆け落ちの約束をした恋人が現れず、それ以来クリスマスが特別な意味を持つ日になっていた女性の元に、ある日、その男性の兄が訪れます。亡くなった弟の代わりに謝罪をし、当時の新幹線の切符を手渡して去っていきます。
それを受け取った女性が「クリスマスプレゼントをもらっちゃった」と涙をこぼすシーンは、静かながら印象に残るものでした。なぜ兄は弟の駆け落ちを止めたのか、なぜ今になって切符を届けに来たのか、そこに明確な答えはありませんでしたが、言葉にしきれない思いを抱えたまま人生を歩んできた女性の表情には重みがありました。過去の記憶と現在が交差するような、温かくも切ないラストとなっていました。
☆☆
鑑賞日: 2013/12/01 イオンシネマ多摩センター
監督 | 本木克英 |
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脚本 | 橋部敦子 |
出演 | 玉木宏 |
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高梨臨 | |
木村文乃 | |
東出昌大 | |
市川実和子 | |
甲斐恵美利 | |
時任三郎 | |
大塚寧々 | |
山崎竜太郎 | |
本田翼 | |
倍賞千恵子 | |
小林稔侍 |