映画【キクとイサム】感想(ネタバレ):差別を越えて生きる子どもたちの姿に心動かされる

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●こんなお話

 キクとイサムのハーフの子どもたちが差別とかと戦いながら生きる話。

●感想

 戦後の日本、特に田舎の地域では、今よりもはるかに強い差別意識が残っていたというのは容易に想像できます。そんな時代にあって、明るく健やかに日々を過ごしていくキクとイサムの姿は、観ていてとても前向きな気持ちになれました。社会の厳しさを背景にしながらも、どこか温かく微笑ましい日常が描かれており、特に子どもたちの自然なお芝居が印象的でした。キクとイサムというふたりの無邪気なやりとりには笑いもあり、彼らを見守るおばあちゃんを演じた北林谷栄さんの存在感も素晴らしかったです。

 物語の中では、近所の人々や子どもたちとの交流が生き生きと描かれており、日常の中にあるささやかな出来事が喜劇のように展開していきます。子どもたちの会話や遊びの場面には素朴な面白さがあって、自然と笑みがこぼれる瞬間も多くありました。しかし一方で、キクがいくら一生懸命に生きても、周囲からは偏見の目で見られたり、善意が届かない場面もあって、胸が詰まりそうになる描写もありました。

 それでもキクは明るさを失わず、いつも笑顔で前を向いています。その姿に寄り添うようにおばあちゃんも強く、あたたかく支えていて、この2人の絆の深さが作品全体に優しい空気を与えていました。辛い状況の中でも、感情に流されすぎず、どこか凛とした美しさを感じさせてくれるのがこの作品の魅力のひとつだと思います。

 また、近隣の人々の描かれ方にも注目しました。差別の対象としてキクやイサムを見る人たちもいる一方で、心から彼女たちを心配し、将来を真剣に考えてくれる存在も描かれていて、その対比がとてもリアルに感じられました。特にイサムをアメリカに送るべきかどうかを巡って、大人たちが意見を交わす場面は、誰もが子どもたちの幸せを思って行動していることが伝わってくる、とても印象深いシーンでした。

 物語の終盤、イサムが実際にアメリカへ旅立つという決断が下されますが、個人的にはその後の彼がどうなったのかをもう少し描いてもらえたら、より深みが増したのではないかと感じました。それでも、作品全体としては、社会の厳しさや家族の絆、人との繋がりをしっかりと伝えてくれるあたたかい一作だったと思います。

☆☆☆☆

鑑賞日:2011/11/07 DVD

監督今井正 
脚本水木洋子 
出演高橋恵美子 
奥の山ジョージ 
北林谷栄 
滝沢修 
宮口精二 
東野英治郎 
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