映画【ジョン・カーター】感想(ネタバレ):火星で始まる英雄譚と壮大な異星冒険

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●こんなお話

 大富豪が未知の惑星へ冒険する話。

●感想

 物語は南北戦争時代のアメリカ、かつて英雄と称えられた男が時代に取り残され、世の中との折り合いがつかずに日々を過ごしていたところから始まります。そんな彼が、突如として現れた謎の存在に導かれ、気づけばまったく知らない地に立っている。荒涼とした砂地、見たことのない構造物、そして妙に体が軽く、ジャンプすると驚くほど高く飛べる。そこが地球ではなく火星だと気づくまでにそう時間はかかりません。

 火星ではジャンプ力だけでなく、鎖を引きちぎったりクリーチャーを一撃で吹き飛ばしたりと、筋力まで明らかに増している描写が続きます。「火星だからパワーアップした」というようなセリフで説明はあるものの、重力の差だけでそこまで変わるのか、と少し不思議に感じてしまう部分もありました。とはいえ、異星での冒険譚としての始まりとしてはテンポが良く、未知の世界に足を踏み入れていく感覚は十分に伝わってきます。

 そこから物語は、火星を支配する二つの国家の対立へと展開していきます。悪役に仕立てられた王子が戦争を終わらせるために政略結婚を迫り、逃げ出してきたお姫様と主人公が出会うところから、火星という舞台での本格的な冒険が始まります。お姫様の説明で「第9光線」といった固有名詞も登場しますが、そのあたりから世界観が急に広がりすぎて、追いつくのが少し大変に感じました。特に専門用語や背景の設定が説明されてはいても、その後の展開にさほど活かされない場面が多く、言葉の意味や意義がやや希薄になってしまっていた印象もあります。

 物語の陰で暗躍するスキンヘッドの男が何者なのかというのも、最後まで明かされることはなく、彼の存在が意味するものがどうしても掴めないままラストへ向かってしまったのが残念でした。あれだけ存在感を放っていたのなら、もっと深く描かれていたら物語に重みが増したのではと思います。

 中盤には、クリーチャーたちのコロシアムでの戦闘シーンなど見どころも多く、ジャンプ力を活かしたアクションや異星の文化を感じさせる演出が目を引きました。特に、巨大な敵に対して主人公が機転を利かせながら戦う姿には力強さがあり、映画としてのエンタメ性はしっかりと詰まっています。ただ、そのあたりの見せ場が後半にぎゅっと詰め込まれていて、終盤の展開がかなり駆け足になってしまったのが惜しかったです。3部作として展開される予定だったような広がりを感じさせるスケールではありますが、1本でまとめるには要素がやや多かったかもしれません。

 主人公自身の背景として、かつて家族を失うという悲しい事件があったことも明かされ、それが火星での彼の行動原理にもつながっているという展開には感情を動かされました。内面にある喪失や葛藤が描かれていることで、単なるアクションだけではない人間的な深みも見えてきます。火星での出来事を通して再び戦う理由を見つけていく姿には、静かな感動があったように思います。

 ただ、最初の地球での姿と火星での活躍のギャップが少し大きく、なぜ彼があれほど強くなったのかについての説得力はもう少し欲しかったところです。地球での能力や信念をしっかり描いておくことで、火星での異常なまでの強さにも納得が生まれたのではないかと思いました。

 総じて、異星での冒険、謎のクリーチャー、国家間の陰謀など、SFとしての要素はしっかりと詰め込まれていて、広大な世界観を旅する体験が楽しめる一本でした。何度も観たことがあるような構成ながら、細部に独自の工夫があり、ファンタジーとSFの交差点にある物語として楽しませてもらいました。

☆☆☆

鑑賞日:2012/04/14 TOHOシネマズ南大沢

監督アンドリュー・スタントン 
脚本アンドリュー・スタントン 
マーク・アンドリュース 
マイケル・シェイボン 
原作エドガー・ライス・バローズ 
出演テイラー・キッチュ 
リン・コリンズ 
サマンサ・モートン 
マーク・ストロング 
キーラン・ハインズ 
ドミニク・ウェスト 
ジェームズ・ピュアフォイ 
ウィレム・デフォー 
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