映画【生贄のジレンマ】感想(ネタバレ):ルール無用の心理戦と生き残りをかけた極限の3部作

The Sacrifice Dilemma
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●こんなお話

 卒業生たちが学校に閉じ込められて1時間おきに生贄を決めないと、配られた腕時計から毒がうちこまれてのたうちまわって死んでいくという話。

●感想

 この手のデスゲーム系映画において、登場人物たちが見ているこちらの想像を下回る行動をとってしまうと、急速に作品への興味が薄れてしまうことがありますが。本作では、そのような失望を抱くことなく、物語が緻密に設計されている印象を受けました。観る側が「それはルール違反では?」と思うような懸念に対しても、劇中で丁寧に対処しており、違和感なくストーリーに没入できました。

 物語は「1時間ごとに記名投票しなければ全員が死亡する」という設定からスタートし、かつては仲の良かったクラスメイトたちが、恐怖と焦燥の中で次第に互いを蹴落とし合うように。まさに“生贄のジレンマ”とも言える状況が描かれ、観ていて緊張感が続きます。

 投票への姿勢は人それぞれで、「誰かが対策を練ろうとする者」「偽善的だと決めつけてすぐに投票する者」「好きな人のために自己犠牲を選ぶ者」など、多様な人間模様が入り乱れ、登場人物の心理描写にも厚みがありました。

 しかし中盤に差しかかると、次々とキャラクターが死亡していく中で、「10年後の自分を語るVTR」が挿入される構成がややテンポを損ねているように感じました。これにより、緊迫感が一時的に中断され、むしろ物語の流れが停滞するように思えました。

 また、死に様が「体をビクビク震わせて絶命する」描写に限られている点も、視覚的インパクトに欠ける要素となっていて。爆発や破裂といったショッキングな表現があれば、より強烈な印象を残せたのではないかと思います。

 1回見おわって再び序盤の日常を見ると、冒頭の平和な日常におけるさりげないカットが、登場人物たちの複雑な人間関係や片思いを巧みに示していたことに気づき、ゲーム開始後の悲惨な展開を知っているがゆえに、より切ない気持ちで鑑賞することになりました。

 続編となる第2作目は、「助かった」と思った矢先に再びゲームが始まるという展開からスタート。死への恐怖から愛を確かめようとするカップルがいたり、一方で片思いの相手に迫ろうとする暴走行動も見られ、人間の欲望と本能が露わに。

 本作の魅力のひとつは、予想を裏切る展開の数々にあります。死亡フラグが立っていない人物が突然命を落としたり、クラス全体が一斉に死ぬといったショック展開が随所に挟み込まれます。

 登場人物たちは監視用の腕時計を外そうとしたり、仲間のためにリスクを冒す行動を取ったりと、模索し続けますが、それぞれの行動が思わぬ結果を引き起こしてしまいます。特に、主人公が「誰も投票したくない」と言いながらも、周囲の裏切りによって結果的に死者が出てしまうという展開は見応えがあり、クラス内の対立構造をさらに深める契機となっています。

 中には、自ら腕を切り落とすことで監視を逃れようとするという場面も登場し、極限状況下での人間の狂気が描かれています。さらに、運営側から“救済システム”が提示され、それを信じるか否かで仲間同士の疑念が高まる展開もスリリングだと思いました。

 ただし、死に方の描写については1作目同様、視覚的にやや単調で、20人以上が一気に亡くなる場面でも、インパクトより悲壮感が強く、ややマンネリを感じました。

 そして物語も終盤に近づくと、中心人物たちのストーリー展開が進むかと思いきや、脇役たちのドラマがメインとなり、やや冗長さが否めませんでした。主人公はただひたすら穴を掘るだけで、ほとんど物語に積極的に関与せず、「投票なんて嫌だ!」と叫び続ける描写に留まってしまっています。

 声を発することができない天才プログラマーや、生存本能の強い女子生徒、突如登場する「ジョーカー」のような存在など、展開の意外性はありましたが、「なぜこんな複雑なシステムで人類を減らそうとしているのか」という動機の弱さにはやや拍子抜けする印象もありました。

 最後には、ゲームの攻略法が見えてきて、全員である行動をとろうと一致団結するものの、たった1人だけが違う行動をとってしまい、その瞬間の隣の男子生徒の絶叫が思わず笑ってしまう名シーンとなりました。

 全体としてはテンポが良く、次々と展開するサバイバル劇に引き込まれる魅力がありましたが、後半になるにつれて作品の焦点がややぼやけてしまった印象です。個人的には、もっと人間の残虐性や凶暴性が前面に描かれつつも、その中にほんの少しの希望が見えるようなバランスの取れた構成が理想的だったと感じました。

 本作は、1クール全8話の30分ドラマとして、クラスごとの人間模様を描きながら展開していけば、より深みのあるシリーズになったのではないかと思える全3部作・約4時間半のサバイバルドラマでした。

☆☆

鑑賞日:2012/08/09 DVD

監督金子修介 
脚本小林弘利 
原作土橋真二郎
出演須賀健太 
竹富聖花 
木ノ本嶺浩 
山本ひかる 
菅野莉央 
柳喬之 
清野菜名 
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