●こんなお話
フィレンツェに逃亡したレクター博士と彼に恨みを持つ大富豪とクラリスの三つ巴の戦いみたいな話。
●感想
主人公は麻薬取引の現場を捜査していたが、予期せぬ銃撃戦に発展し死者が出てしまう。その責任を問われ、表舞台から一歩引かざるを得なくなる。一方で、ヨーロッパの地では、あのレクター博士が静かに暮らしていた。舞台はフィレンツェ。石畳の街と歴史ある建築物が登場し、視覚的には目を奪われるような場面が続く。
そんな中、イタリアの警察官が博士に高額の懸賞金がかかっていることを知り、捜査に乗り出す。直接指紋を採取するために、地元の若者を使ってスリのような手口を仕掛けるものの、逆に博士の罠にはまり、返り討ちに遭ってしまう。警察官は次第に執念を強め、裏の手を使って追い詰めていくが、最後には博士に捕まり、命を落とすことになる。
博士を長年恨み続けている大富豪も登場し、独自のネットワークを駆使してレクターを捕らえようとする。一方博士はアメリカに渡り、過去に自分に冷たく接した司法省の人物を監禁し、さらには主人公も自宅へと招き入れる。テーブルには博士お手製の料理が並び、異様な食事会が始まる。やがて博士は大富豪の罠にかかるが、そこからも巧みに逃げ延び、逆に大富豪を人食いブタのいる囲いの中へ突き落とすという展開を迎える。
終盤、主人公と博士の間には複雑な感情が交錯する。博士に手錠をかけるも、博士は自らの手を切り落とそうとする。それをどう受け止めるかという選択を、主人公は迫られることになる。
フィレンツェの街並みは、物語の筋とは別に、絵画のような美しさで印象に残りました。大理石の建物や古い教会の陰影、静かに流れる時間を感じさせるロケーションが、この物語の異様さに不思議とマッチしていて、視覚的にはとても魅力的だったと感じます。
ただ、物語全体の流れとしては、やや焦点がぼやけているように思いました。主人公の物語と、イタリアでのレクター博士の動向がなかなか交わらず、前半は特に別々の話を見ているような印象を受けました。そのため、物語がどこへ向かっていくのかが掴みにくく、少し戸惑いも覚えました。
大富豪が博士を追い詰めるきっかけとなるのが、元看護師から得た古いレントゲン写真というのも、唐突な始まりでやや不自然に感じられました。その後も、博士の行動が次第に猟奇的になっていく流れはあるのですが、過去作のような衝撃を感じるシーンはあまりなく、サスペンスの盛り上がりとしては少し控えめだったかもしれません。
大富豪というキャラクターも、外見的なインパクトはあるものの、内面にある歪みや執着心があまり伝わらず、悪役としての深みには欠けていた印象です。彼の側近たちとのやりとりや、博士との対決も、それほど緊張感が続くわけではなく、どこか淡々と描かれていたように思います。
最終的には、レクター博士が遠くから主人公のことを見守っているかのような描写が残ります。表面的には異常で危険な人物でありながら、どこかで主人公の孤独や苦しみに寄り添っているようにも見える。その微妙な距離感や関係性が、この映画のひとつの味わいであり、レクター博士の人物像に深みを加えているとも感じました。
全体としては、サスペンスのスリルよりも、人物の内面や関係性の描写に重きが置かれていた作品だったと思います。風景の美しさと、静かに進行する狂気とが混ざり合う、不思議な余韻を残す一本でした。
☆☆
鑑賞日:2014/09/16 DVD 2023/06/11 NETFLIX
監督 | リドリー・スコット |
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脚本 | デイヴィッド・マメット |
スティーヴン・ザイリアン | |
原案 | トマス・ハリス |
出演 | アンソニー・ホプキンス |
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ジュリアン・ムーア | |
レイ・リオッタ | |
フランキー・フェイゾン | |
ジャンカルロ・ジャンニーニ |