映画【八月の狂詩曲】感想(ネタバレ):戦争の記憶と家族のつながりを描いた静かな物語

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●こんなお話

 長崎の被爆体験をした祖母とその家族の夏の話。

●感想

 おばあちゃんの家に孫たちが集まり、アメリカから届いたエアメールを読むシーンから映画は始まる。手紙の差出人はおばあちゃんの兄で、戦後にアメリカへ移住し、ハワイで農園を経営しながら、息子や娘、孫たちに囲まれて暮らしているという。日本にいる孫たちの両親が彼の家を訪れ、その滞在の様子を手紙で報告してきた。

 そんな中、孫たちは話し合う。おばあちゃんの夫は原爆で亡くなったのに、アメリカに対して怒りや恨みはないのだろうかと。しかし、おばあちゃんは「憎むべきはアメリカ人ではなく戦争そのもの」と静かに語る。その言葉には重みがあり、説得力がありました。

 孫たちは長崎の街を歩き、原爆のメモリアル施設や碑などを見学し、歴史の重みと向き合っていく。一方で、おばあちゃんの知人が突然家を訪ねてきて、1時間も無言のまま時を過ごすという出来事もあった。孫たちにとっては奇妙に見えるが、戦後を生き抜いた世代同士の沈黙には、言葉では語れない何かがあったのかも。

 やがてアメリカから戻ってきた両親とともに、おばあちゃんの兄の息子・クラークも日本にやってくる。彼は長崎で被爆したおばあちゃんと初めて直接会い、アメリカ人としてその歴史を何も知らずに過ごしてきたことを謝罪する。クラークもまた原爆関連の記念碑や追悼式典に参加し、戦争の歴史に触れていく。

 クラークは孫たちとも少しずつ接し、滝で一緒に遊ぶような和やかな場面も描かれるが、彼の父親が急逝したという知らせが入り、急遽アメリカに戻ることに。突然の別れがやや唐突で、彼の存在意義が最後まであいまいなまま終わる。

 その後、物語は再びおばあちゃんへと戻る。体調や様子に異変が現れ、ある豪雨の日、彼女は家を飛び出す。孫たちがそれを必死で追いかけるシーンで物語は幕を閉じます。ここで流れる妙に明るい歌が場面にそぐわず、思わず戸惑ってしまいました。

 物語の構成は全体的に散漫で、序盤から兄弟の手紙を読む静かな時間が続き、なかなか本筋に入っていかない印象があり。会話の多くが説明的で、登場人物の感情が感じづらいです。特にカッパの話や雷に打たれた杉の話など、物語の核から外れるエピソードが多く、何を描きたいのかがぼやけてしまったと思います。

 とはいえ、おばあちゃんが語る「アメリカ人は戦争を終わらせるために原爆を使ったけど、その影響は今も続いている」という言葉は、シンプルながら深く心に残りました。原爆の悲惨さを直接的に描くよりも、こうした静かな言葉のほうが、かえって強く訴えかけてくるものでした。

 結果として、期待していたような感情の波や展開には乗れず、個人的には少し退屈に感じてしまった一作でした。

☆☆

鑑賞日:2012/07/15 DVD 2023/11/25 Hulu

監督黒澤明 
脚本黒澤明 
原作村田喜代子 
出演村瀬幸子 
井川比佐志 
茅島成美 
大寶智子 
伊崎充則 
根岸季衣 
河原崎長一郎 
吉岡秀隆 
鈴木美恵 
リチャード・ギア 
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