映画【ファーストラヴ】感想(ネタバレ):過去を暴く声──少女と向き合う静かな対話劇

firstlove
スポンサーリンク

●こんなお話

 殺人事件が起こって、その容疑者が養育環境で何があったのかとそれを調べる心理士の主人公の過去も男性たちに酷い目に遭っていたことがわかる話。

●感想

 ある日発生した殺人事件。その容疑者として浮かび上がったのは、被害者の娘だった。報道が加熱する中、主人公はその少女に会いに行くことになる。刑事として、あるいはひとりの人間として話を聞いていく中で、少女の過去に潜む深い闇が徐々に明らかになっていく。

 最初は、淡々と語られる供述だったが、主人公が少しずつ踏み込んでいくにつれて、その背後にあった環境の過酷さや、大人たちに囲まれて逃げ場のない状況が浮かび上がってくる。表面上は家族という形を取りながらも、そこにあったのは一方的な支配や無関心、時には暴力を伴う抑圧だった。

 容疑者の少女は、一見冷静に見えて内面には大きな傷を抱えていることが少しずつ明らかになる。そんな中、主人公は元恋人である弁護士とともに、彼女の証言を手がかりに関係者へ話を聞きに行くことになる。捜査が進む中で、少女の両親との関係がどのように崩れていったのか。そしてその崩壊に至るまでの過程に、見過ごされてきたものが何だったのかが描かれていく。

 さらに物語は、主人公自身の過去へと触れていく。かつて自身も父親からの暴力に苦しんでいた経験があり、元カレである弁護士との大学時代の出会いや、彼の兄との結婚までの経緯などが断片的に描かれていく。ただ、そうした回想が事件そのものにどれほど直接的な関わりを持っているのかは曖昧で、観る側としては少し距離を感じる構成だったかもしれません。

 俳優陣の演技には見ごたえがありました。北川景子さんが演じる主人公は、抑えた表情の中に確かな意志を感じさせる芝居で物語を支えていましたし、中村倫也さんの弁護士役も、静かさの奥に複雑な感情が見え隠れする人物像を丁寧に演じていたように思います。芳根京子さんが演じた容疑者は、激しい感情の起伏を繰り返す役柄で、その振り幅の大きさに引き込まれました。そして木村佳乃さんのいわゆる“毒親”としての怪演も印象に残ります。窪塚洋介さんの落ち着いた存在感や、高岡早紀さんの短いながら強烈な登場シーンなども、作品に重みを与えていたと思います。

 作品全体としては、社会に潜む問題――少女が大人たちの思惑や暴力に翻弄される構図を描こうとしていることは伝わってきました。ただ、そうしたテーマを強調するあまり、説明的な場面が続いてしまい、テンポとしてはやや平坦に感じてしまう部分もありました。

 また、主人公と元カレとの関係性をめぐる描写も多く挿入されますが、それが事件の真相や主題とどのように交わっているのかが見えにくく、物語全体の軸がぼやけてしまう印象も残ります。病院のベッドで突然告白を始めるシーンなどはやや唐突で、感情の流れが置いてきぼりになる場面も見受けられました。

 終盤に向けて、容疑者の証言の信憑性が揺らいでいく中で、観客としてはこの物語がどのジャンルに収まるものなのか、少し見極めづらさもありました。ミステリーとしての疑惑の連続を描くのか、あるいは女性たちの連帯と再生を描くドラマなのか、また三角関係の恋愛模様としての側面を持たせているのか。方向性が分散してしまっている印象も受けました。

 とはいえ、ひとつひとつのシーンには丁寧な演出が施されており、俳優陣の演技力によって強く心を動かされる瞬間もありました。光と影のコントラストを活かした映像も美しく、感情の揺らぎを映す空間として成立していたと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2021/06/13 Amazonプライム・ビデオ

監督堤幸彦 
脚本浅野妙子 
原作島本理生
出演北川景子 
中村倫也 
芳根京子 
窪塚洋介 
板尾創路 
石田法嗣 
清原翔 
高岡早紀 
木村佳乃 
タイトルとURLをコピーしました