●こんなお話
プログラマーの主人公が隠遁生活する社長に会える権をゲットして、人里離れた場所で会ったら。社長が開発した人工知能を持ったロボットがいて、そのロボットのテストに協力するってことになるけど、実は…な話。
●感想
近未来的な技術の発達がテーマにある物語でありながら、登場人物はほんのわずかで、舞台も一つの研究施設とその周辺に限られているというミニマルな構成でした。室内の白く無機質な空間と、時折挿し込まれる自然の風景との対比が印象的で、世界の広がりはないものの、ビジュアルの完成度が非常に高く、作品全体を包む空気感に引き込まれました。無駄のない構図と照明で、いかにもSFらしいクールな映像世界が展開されていて、観ているだけで画面の美しさを堪能できる作品でした。
物語は基本的に会話劇で進行していき、人工知能と人間とのあいだで交わされるやりとりが中心になっていきます。企業の代表として主人公を迎え入れる社長と、彼の手によって開発されたAIロボット。その三者のあいだで展開される会話は、どこか不穏な空気が漂っていて、何かが起こりそうな緊張感が終始張り詰めていました。とはいえ、その会話の内容がすぐに感情として伝わってくるかといえばそうではなく、登場人物が何を感じているのかがつかみにくく、観る側としては距離を感じる時間が続いていたように思います。
とくに社長と人工知能のあいだで交わされる哲学的な対話や、曖昧な表情のやりとりは、じっくり向き合わないと難解に感じる部分もありました。人工知能に感情があるのか、あるいはそれを信じてしまった人間の側に問題があるのか、その曖昧さこそがテーマなのだと思いますが、物語の流れとしては淡々としていて、観客としては戸惑いながら見守るような感覚が続いていた印象です。
後半になると、社長が行っていた研究の実態が明らかになり、それに対して主人公が反発する展開へと進んでいきます。しかし、その社長の行動も科学者としてはむしろ当然の範囲のようにも思えてしまい、なぜそこまで強い怒りを抱くのかと少し距離を感じてしまいました。倫理的なジレンマを描こうとしていることは理解できるのですが、観ているこちらとしては、どこまで共感してよいのか、あるいは冷静に見守るべきなのかが掴みづらく、少しふわふわしたまま終盤を迎えることとなりました。
そうした中でも、AIロボットの造形は非常に魅力的で、美しさと知性を兼ね備えたキャラクターとしてスクリーンに現れるその存在感には見惚れてしまいました。目の動きや表情の変化、微細な仕草などが丁寧に作り込まれており、まるで本当に心を持っているかのように感じられる瞬間もありました。中盤に挿入されるロボットと人間がダンスを踊る場面なども、妙な間合いと演出によって不気味さと親しみのあいだを行き来する不思議な感覚を味わえました。ただ、どこで笑っていいのか、怖がるべきなのかがわからない演出も多く、自分の中の立ち位置が定まりにくかったように思います。
また、ヒロインのロボットに対して抱く感情とは別に、社長が開発したもう一体の実用型ロボットについても印象的でした。物語では大きくは取り上げられない存在ですが、ある意味ではそちらのほうが現実に即していて、実用的で高度な技術を感じさせるキャラクターだったと思います。あのロボットを作る技術のほうがすごいのではないかと感心してしまったりして、物語のテーマとはまた違った方向で驚かされる一面もありました。
映像の美しさと、テーマの重たさと、キャラクターの不思議な存在感が絡み合った作品で、観終わった後もどこか心の中に余韻が残る映画でした。
☆☆☆
鑑賞日: 2016/06/17 チネチッタ川崎
監督 | アレックス・ガーランド |
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脚本 | アレックス・ガーランド |
出演 | ドーナル・グリーソン |
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アリシア・ヴィキャンデル | |
オスカー・アイザック | |
ソノヤ・ミズノ |
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