●こんなお話
ウィルスが蔓延したイギリスで、壁に閉ざされた場所に突入する特殊部隊が襲われる話。
●感想
序盤から火花が飛び散るようなド派手な演出が連続し、いきなり画面に釘付けになります。爆発する人体、宙に舞う肉片、疾走する車のカーチェイスと、まさに映像の洪水とでも言いたくなるような勢いで物語が動き出していきます。銃声と炎の交差する中、特殊部隊の近代兵器に囲まれながらも、カタキ役たちは恐れる様子もなく果敢に突っ込んでいく。その姿にゾクゾクとするような高揚感があり、映画館の空気が一段と熱を帯びていくような感覚を覚えました。
この作品は、ストーリーというよりは、とにかく“観客を楽しませよう”という情熱に満ちた一本だったように感じます。緻密なプロット構成や予測不能な展開というより、スタッフの方々が「好きな映画」「影響を受けた作品」を惜しみなく混ぜ込んでいくお祭りのような構成で、オリジナリティという面では控えめかもしれません。ただ、それがかえって潔くて、気持ちよく振り切った一本だとも言えると思います。目まぐるしく場面が切り替わっていくスピード感もあり、終始ワクワクしながら楽しめました。
一方で、主人公の女性については、美しい佇まいが印象的ではあるものの、表情や反応があまり動かないため、感情の流れが掴みにくいと感じました。敵に捕まって縄で拘束されるシーンもあるのですが、常に落ち着いた様子のまま進んでいくため、切迫感や危機感がもう少し映っていると良かったかもしれません。ピンチに陥ってもあっという間に状況を脱する描写が続き、ドラマ的な起伏よりもテンポ重視で展開されている印象でした。
敵対勢力が長年にわたり閉じ込められてきた文化背景についても説明は控えめで、なぜ家畜の牛が豊富にいるのに人間を捕らえて食べているのか、その動機のようなものも明示されていません。ただ、あまり細かい理屈を問うよりも、彼らの世界観そのものを楽しむ、という姿勢で観るほうがこの映画には合っているように思います。血塗られた儀式や、奇妙な村の風習に没頭していくカタキ役たちの様子には、どこか呑まれてしまいそうな迫力がありました。
中盤には主人公たちが列車に乗って逃走する展開があります。ここでもアクションが映える場面が多く、カタキ役たちがバイクや車を持っているにも関わらず、全力疾走で追いかけてくるという場面は妙におかしく、思わず笑ってしまいそうになります。そして、線路の上をたどれば追跡は容易なのに、なぜか深追いしてこない。そうした“突っ込みどころ”が散見されるのも本作ならではの魅力かもしれません。
終盤に登場する別の集落の住民、特に村のお兄さんの存在も印象的でした。なぜ彼が、まさにその時間、その場所に登場できたのかはわからないのですが、主人公たちを出迎えるかのように弓矢を構えて佇んでいる姿はどこか神秘的で、物語を大きく転がす存在としてしっかりと役割を果たしていたように感じます。仮に彼がずっと構えて待っていたのだとしたら、その辛抱強さには感服します。
細かなロジックやキャラクターの行動原理に目を向けると、多少引っかかるところはあるものの、それ以上に、全体を包み込む熱量とテンポの良さに魅せられて最後まで楽しく観ることができました。アクションが好きな方、映画的な“勢い”を味わいたい方には、刺さる一本だと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2010/02/11 Blu-ray 2022/01/24 NETFLIX
監督 | ニール・マーシャル |
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脚本 | ニール・マーシャル |
出演 | ローナ・ミトラ |
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マルコム・マクダウェル | |
デヴィッド・オハラ | |
ボブ・ホスキンス | |
エイドリアン・レスター |