映画【ノー・エスケープ 自由への国境】感想(ネタバレ):追われる者たちの90分間、灼熱の逃走劇

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●こんなお話

 メキシコ版【リアル鬼ごっこ】な話。 

●感想

 不法入国者と過激な白人男性とのシンプルな追走劇を軸に、次々と襲いかかる障害を乗り越えていくという構成の作品。ひとつのアイデアで90分を走りきるこの作品は、テンポの良さとスピード感で観客を引っ張っていく力を持ったエンタメ映画でした。

 冒頭では、車の修理に手慣れた様子の主人公や、敵として登場する過激派の白人男性が、どこか交差するように描かれていきます。とても短い導入ながらも、それぞれの立場やスキル、役割を一目で伝えてくれる丁寧な作りで、すっと物語に入り込める構成が印象に残ります。

 物語の本筋は、不法入国者たちが国境を越えようとする中で、突如として遠くからの狙撃に見舞われるという場面から始まります。そこから先は一気に緊張感が高まり、あとは息つく暇もなく追いかけられる展開が続いていきます。狙撃される不法入国者たちに、吠えながら追ってくる犬、乾いた砂漠の中を這うように進む姿がとてもリアルで、見ていてこちらまで喉が乾いてきそうな緊迫感がありました。

 中盤以降も、車を奪おうとしたり、岩場をジャンプで飛び越えたり、蛇がうようよいるエリアを進んだり、トゲだらけのサボテンに阻まれたりと、自然そのものがひとつの大きな敵として立ちはだかります。ただ追われて逃げるだけでなく、地形や自然の厳しさも物語のアクセントになっていて、単なるサバイバルアクションではなく、旅路としても楽しめる構成になっていたと感じました。

 特に印象に残ったのは、主人公たちが窮地に追い込まれていく中でも、互いに助け合おうとする小さなやり取りがしっかりと描かれていたところです。セリフは少ないですが、表情や動作だけで人間の思いやりのようなものが垣間見えた場面があり、そこがとても良かったです。

 ただ、主人公がなぜ不法入国を試みていたのか、あるいは狙撃してくる男がどうしてそこまで執拗なのかといった背景については、一切触れられません。ドラマとしての要素は抑えめで、あくまで今、目の前で展開される逃走劇だけに焦点を当てています。その割り切りが潔く、逆に観る側の想像力を刺激してくれた部分もあったように思います。

 ラストでは、果たして主人公が本当に家族に会えたのか、その先の物語は描かれませんが、それでもここまで生き延びてきた彼の背中には、確かに強さが宿っていたように感じました。90分という短さの中に詰め込まれたスリルと工夫、そして体温のような人間味。余韻がじんわり残る、シンプルながら見応えのある一本でした。

☆☆☆

鑑賞日: 2017/05/17  TOHOシネマズシャンテ

監督ホナス・キュアロン 
脚本ホナス・キュアロン 
マテオ・ガルシア
出演ガエル・ガルシア・ベルナル 
ジェフリー・ディーン・モーガン 

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