●こんなお話
刑事と容疑者が不倫しそうになる話。
●感想
物語は、射撃場での刑事と後輩との訓練から始まる。仕事ぶりや人間関係など、彼の日常の一端が描かれた直後、山の崖から男性が転落する事件が発生する。事故なのか、それとも事件なのか判断のつかないまま、主人公は現場へ向かい、調査を進めていくことになる。
転落した男性の妻として事情聴取に現れたのは、若くミステリアスな中国出身の女性。主人公は彼女を当初は娘だと思っていたが、実は妻であることが判明する。韓国語があまり得意でない彼女とは翻訳ソフトを介しての会話が続く中、主人公は徐々に彼女に惹かれていく。彼女の働く施設を監視しながら、遠くから日常を見つめる主人公の視線には、捜査の目線とともに、どこか個人的な感情も混ざり始めていた。
刑事の妻は原発で働いており、2人の関係は実質的に週末婚のような距離感がある。その中で主人公は、容疑者とされる女性の行動を追いながらも、少しずつその内面に心を寄せていく。やがて彼女が世話している高齢者の一人が入院し、新たな利用者の元へ足を運ぶと、そこにいたのは認知症を患った男性だった。彼のスマートフォンの中には、容疑者の証言と食い違う情報が残されており、そこから主人公の推理が動き始める。
真相を確信した主人公は、彼女にその事実を伝えるが、彼女を逮捕することはせず、スマートフォンの処分を勧めるという選択をとる。13か月が過ぎ、主人公は彼女の勤務先近くに引っ越し、新たな生活を始める。そこへ思いがけず彼女と再会する。彼女の隣には新しいパートナーの姿があった。まもなく新たな殺人事件が発生し、その被害者の妻として再び彼女の名前が浮上する。
2件目の事件は、被害者が詐欺に関わっていたことから、単純な愛憎劇とは異なる複雑な事情があることが示唆される。その中で容疑者の過去が徐々に明らかになり、物語は新たな局面を迎えていく。主人公は、以前容疑者がスマートフォンを海に捨てたことを思い出し、その手がかりを頼りに真相に近づこうとするが、データはすでに失われていた。彼女が現在持っているスマートフォンに注目するが、2人の関係は再燃しそうでいて、ついに一線を越えることはないまま、彼女の姿は消えてしまう。
やがてスマートフォンから、彼女の音声メッセージが再生される。そこには、海辺の砂浜で自ら穴を掘り、満ちていく潮の中で姿を消していく彼女の姿が記録されていた。彼女の名を呼びながら、主人公は静かな波音の中に立ち尽くす。
刑事と容疑者の複雑な関係を軸に進む物語で、不倫という要素を背景にしつつ、事件の真相を追いかけるサスペンスの要素が丁寧に折り重ねられていました。捜査ものとしての定番の構成を取りながらも、翻訳アプリを介した会話や、高齢者介護の現場を舞台にするなど、新しい要素が散りばめられていて、興味深く感じる部分も多くありました。
ただ、恋愛と推理という2つの主軸が並行して描かれることで、個人的にはどちらにも気持ちが入りきれない感覚もありました。主人公と容疑者の関係がややじれったく、もっと早く気持ちを伝え合ってもいいのではと感じる場面もあったように思います。推理要素についても、スマホの段数を測るアプリを使ってアリバイを崩していくという発想は面白かったものの、その真相が明かされたときの驚きや解放感はやや控えめだった印象です。
登場人物の描写も時に唐突で、背景の説明が少ないまま登場して退場する人物もいたため、どのような関係性が物語に影響しているのかを把握するのに少し時間がかかりました。とはいえ、映像の美しさや情緒的なラストには余韻があり、全体を通して独特の空気感が残る作品だったように思います。
☆☆
鑑賞日:2023/02/24 109シネマズ川崎
監督 | パク・チャヌク |
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脚本 | チョン・ソギョン |
パク・チャヌク |
出演 | パク・ヘイル |
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タン・ウェイ | |
イ・ジョンヒョン | |
コ・ギョンピョ |