映画【デス・オブ・ミー】感想(ネタバレ):孤島で解かれる恐怖の儀式

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●こんなお話

 タイの離島に来たカップルが目覚めたら直近の記憶がなくなっていてパスポートとかもないし、帰れないとなったら幻覚とか見て、さあ大変な話。

●感想

 朝、目を覚ますと部屋の中は荒れ放題だった。テーブルは倒れ、カーテンはちぎれ、グラスの破片が床に散らばっている。昨夜、どれほど飲んだのかも思い出せない。二人はひどい二日酔いのまま、ただ呆然とその惨状を見つめるしかなかった。ハングオーバー」のよ幕開け。テレビからは、台風が接近しているというニュースが流れている。彼らは早く本土に戻ろうと港へ向かうが、そこでパスポートがないことに気づく。さらに、荷物を預けたまま船が出てしまい、すべてを失う。頼れるものが何一つない。

 仕方なくホテルに戻ると、スマートフォンに昨夜の映像が残されていた。そこには、レストランで謎の飲み物を飲まされる二人の姿。映像は次第に不穏なものへと変わり、ベッドの上での行為、そして男が女の首を絞めるシーンで終わる。画面の中では確かに息絶えたはずの女が、現実の世界で「あなた、何をしたの!」と叫ぶ。

 舞台はタイの離島。言葉も文化も通じない閉鎖的な空間の中で、主人公がじわじわと追い詰められていく。マギー・Qの演技は見事で、恐怖や混乱、怒り、そして孤独が細やかに伝わってきました。彼女が絶望の淵で、それでも真実を掴もうとする姿には鬼気迫るものがありました。桟橋のシーンでは、夫が魚を捌く姿をただ見つめているだけで、どこか現実から乖離していくような狂気が漂います。そして漁民の一言に導かれるように、自ら腹に包丁を突き立てる。その衝撃が観る者に深く刻まれるものでした。

 しかし物語の展開は、主人公の恐怖と不安を中心に据えながらも、どこか漂流していくようだ。謎めいた飲み物、信仰に取り憑かれた島民、そして繰り返し訪れる「意識の断絶」。彼女は何度も気を失い、目を覚ますたびに「ここはどこ?」という不安に包まれる。時間の流れが曖昧になり、現実と幻覚の境界が薄れていく。

 やがて島の古い信仰が明らかになる。200年ぶりの台風を鎮めるためには、誰かが犠牲になるという。島民たちはその儀式を当然のように受け入れているが、その狂気めいた合理性が、異様な静けさを伴って描かれる。マギー・Q演じる主人公が何度も生死を往復する姿は、まるで信仰の呪いそのもののように感じられた。

 映画全体としては、サスペンスというよりも、異国の閉ざされた信仰社会に迷い込んだ人間の恐怖を描いた作品だと思います。物語は散漫な印象もあるが、マギー・Qの表情の一つひとつが、観る者に「この島から逃げられない」という重苦しい現実を確かに伝えていました。

 監督ダーレン・リン・バウズマンが『ソウ2』などで見せた緊張感や構成の巧みさに比べると、本作はどこか緩やかで、夢うつつのような不安定さを漂わせていると思います。だが、それこそがこの映画の魅力でもある。理屈ではなく、肌感覚で恐怖を感じさせるタイプのサスペンスであり、画面から伝わる湿った空気や、島のざらついた質感が不思議な余韻を残しました。

☆☆

鑑賞日:2021/12/14 DVD

監督ダーレン・リン・バウズマン
出演マギー・Q 
ルーク・ヘムズワース 
アレックス・エッソー 
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