映画【崖上のスパイ】感想(ネタバレ):スパイ×裏切り×抗日作戦が交錯する|緊迫の心理戦と映像美

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●こんなお話

 日本軍の蛮行を世界に知らせようとする中国共産党のスパイと満州国の特務警察の攻防の話。

●感想

 雪に覆われた静寂な森林を空から見下ろす視点で始まります。突如として木々に積もった雪が一斉に降り注ぎ、その雪の中に落下傘で降下してくる主人公たちの姿が映し出されます。彼らは雪原に着地すると、各自が毒薬を一錠所持し、二人一組となって任務を開始。

 そのうちの一組のもとに、合言葉を使って接触してきた案内人が現れます。最初は味方のように振る舞いますが、突如として銃を向けてきたことで、実は敵であることが明らかになる。

 この一件から、内部に裏切り者がいる可能性が浮上し、もう一班に速やかに連絡を取らねばならないという展開になります。一方その頃、もう一班は裏切りの事実を知らぬまま、協力者と合流し、列車に乗って移動を開始します。車内からは、仲間の一人が特務警察に捕らえられる姿を目撃し、そのことを協力者に伝えますが、任務を優先すべきだという判断により、協力者が手配した隠れ家へと向かうことに。

 特務警察側も既に二人の存在を把握しており、残る二人を泳がせるという策略を講じます。一方、協力者が特務警察のスパイではないかという疑念が生まれ、一人のスパイは毒薬を少量飲み、体調不良を装って病院へと運ばれることで脱出を図ります。

 捕らえられた一班のメンバーは拷問を受けますが、そこであらたな事実が判明。特務警察のナンバー2が、実は共産党員であり、内部協力者であったという。しかし逃亡は不可能だと悟ったリーダーは、情報を託して自ら捕まる道を選びます。自白剤による尋問で、「映画館」での連絡手段が明かされ、特務警察は映画館に張り込みを開始します。

 以降、特務警察内部では、共産党との内通者をめぐる駆け引きが繰り広げられ、誰が味方で誰が敵なのか。物語のクライマックスでは、大使館のパーティーに全員が集結し、そこで銃撃戦が勃発。一人が死亡し、一人が逃亡します。

 特務警察のナンバー2も疑われますが、機転を利かせて何とかその場を切り抜けます。そして、目撃者を無事に逃がし、主人公の生き別れた子どもを母親の元へ送り届け、再会が描かれておしまい。

 本作は、抗日活動に従事する4人のスパイと、彼らを捕らえようとする特務機関との間で繰り広げられる心理戦や騙し合いが魅力でした。台詞に頼らず、役者の目線や小道具の使い方によってストーリーが語られていく演出が印象的でした。映画館のスケジュール表に印をつける所作や、それを見つけた後の微妙な表情など、登場人物の心情を読み取る楽しさがあります。特に序盤の列車内での無言の駆け引きは秀逸で、動きだけで観客を惹き込む見せ方が光ります。

 銃撃戦やカーチェイス、離れ離れになった親子の再会といった要素も盛り込まれており、特にクラシックカーによるチェイスは斬新でした。ただ、カットの多さや構図の複雑さもあり、場面の把握が難しい瞬間もありました。

 また、子どもとの再会という感動的な展開が用意されているものの、それまでの描写が薄く、感情移入が難しいと感じる場面もありました。さらに、「ウートラ計画」という抗日活動の核心を担う人物が誰なのかが最後まで曖昧で、ラストで突然「逃がしました」という形で終わるのは、ややカタルシスに欠けた印象です。

 とはいえ、そこに至るまでの心理戦とスパイ同士の駆け引きは非常に緊張感があり、約2時間にわたって集中して鑑賞することができました。日本軍が中国人同士を争わせるという重い歴史的背景も描かれており、胸が締め付けられるような作品でもありました。

☆☆☆☆

2023/02/19 チネチッタ川崎

監督チャン・イーモウ 
脚本チュエン・ヨンシエン 
チャン・イーモウ 
出演チャン・イー 
ユー・ハーウェイ 
リウ・ハオツン 
チュウ・ヤーウェン 
チン・ハイルー 
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