映画【廃棄の城】感想(ネタバレ):ゴミの中に見つけた新しい世界と、少年の成長

City-of-Lost-Things
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●こんなお話

 ゴミの街に迷い込んだ少年とゴミたちの話。

●感想

 16歳の少年は、自分の居場所がどこにもないと感じていた。街にいても学校にいても、どこか自分が余っているような感覚がつきまとっていた。そんな思いを友人にぶつけた結果、拳で返されて気を失ってしまう。気がつくと、目の前を大量のビニール袋が逃げ出している光景が広がっていた。しかも、彼らは言葉を発していた。まるで当たり前のように、彼らは少年に語りかけてくる。少年も戸惑いつつも、次第にその状況を受け入れていく。

 案内されたのは、街のはずれにあるゴミたちの世界。そこではビニール袋や空き缶、壊れた家電など、様々なものたちが擬人化されて暮らしていた。彼らの中心にはゴミの神様がおり、それぞれが持ち場をもちながら生き延びていた。少年はその世界で「自分もゴミなのかもしれない」と感じ、ゴミたちと一緒になって騒ぎ回る。

 ただ、ビニール袋たちはかつて多くの仲間を失ってきた。ゴミ収集車に回収され、再びこの世界に戻ってこられたのは身体の一部だけになってしまった者たちばかり。「このままでは永遠にゴミのまま」と感じている彼らは、何とかこの世界を抜け出したいと願っていた。先代から受け継いだ脱出の知恵をもとに、ジェットエンジンでゴミ収集車の吸引から逃れる練習を重ねていく。

 一方、神様はそうした行動を認めない。少年も最初は「この世界にいても構わない」と考えるようになり、なんと脱出を企てるビニール袋たちの計画を神様に密告してしまう。さらにゴミ収集車の運転手にも知らせて、袋たちの脱出を二度にわたり阻止しようとする。ここまでの主人公の行動には驚かされました。

 それでもビニール袋は「君たちはゴミじゃない、ちゃんと役割がある」と仲間たちに語りかけ、脱出をもう一度試みるよう仲間を鼓舞する。少年の行動も少しずつ変化し、最終的には自ら囮となって袋たちの脱出を助ける。ビニール袋たちは集まって大きな気球のような形となり、目指すは台北の街。袋が夢見ていた101ビルを目指して空へと旅立っていく。

 しかしビルの前にたどり着いた時、何かが変わるわけではなかった。「自分は結局ゴミのままだ」と袋は落ち込む。その結末に、主人公も何かを感じ取った様子で、皆でビル近くのゴミ集積場に降り立つ。その先の展開は観る人の想像に委ねられる。

 物語全体として、ファンタジーと現実の間の境界が非常にあいまいで、主人公がなぜその世界に入り、なぜすんなり受け入れたのかという説明はなく、リアリティラインが読み取りづらい印象を受けました。さらに、脱出を阻止する密告を二度も行いながら、最後に囮になるだけでその行動が帳消しになるのかという点にはやや疑問が残ります。

 ゴミの世界から逃れようとする袋たちの行動も、ベルトコンベアの上で炎から逃れるクライマックスなどは、やはり『トイ・ストーリー3』の印象が強く重なってしまい、既視感のある演出に思えてしまいました。

 CGアニメーションに関しては、特に冒頭とラストの人間たちの描写において、キャラクターの動きや質感がどこかぬめっとしていて不気味さを感じる部分がありました。物語の大半がゴミたちの世界で展開されていたときにはさほど気にならなかったのですが、最初と最後で人間の描写が増えるとその質感の差が目についてしまいました。

 終わってみると、何をどう受け取ればいいのか掴みにくい作品ではありました。ただ、ゴミたちが持つそれぞれの想いや生まれ変わりたいという願い、そして少年がそれに触れて少しずつ心を動かしていく過程には、心を打たれる場面も確かに存在していたように思います。

☆☆

鑑賞日:2022/04/15 試写会

監督イー・ツーイェン
脚本イー・ツーイェン
出演ホアン・ハー
ジョセフ・チャン
グイ・ルンメイ
リー・リエ
カオ・ジエ
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