●こんなお話
日本を守るために巨大化する主人公の日常と戦いの日々の話。
●感想
主人公へのインタビューから静かに始まります。彼は常に傘を持ち歩いており、自宅でのインタビュー中も手放すことがありません。その理由には触れられませんが、どこか不安定な彼の内面を象徴しているようにも感じられます。話の中では、離婚して会えなくなった娘のことを切々と語り、寂しさと後悔がにじみ出ていました。そんな中、外では近隣住民から石を投げられたり、自宅に落書きをされるなど、彼が周囲から疎まれている様子も描かれます。
主人公の職業は、巨大化して怪獣と戦う「大日本人」。怪獣出現の通報が入ると、特定の施設へと移動し、電流を流すことで変身・巨大化し、戦いに赴くという設定です。しかし、かつては高視聴率を誇っていたこの戦いの様子も、今では深夜枠に追いやられ、視聴率も低迷。スポンサー離れが進み、自身の体に広告を貼って戦うことを余儀なくされています。それをテレビ画面に映らないよう隠して戦うと、マネージャーに叱られるという悲しい状況。かつては多くいた“巨大化するヒーロー”も、今では主人公ただ一人という孤独な戦いとなっています。
彼の給料はわずかで、生活は決して楽ではありません。祖父の介護にも直面しており、心身ともに疲弊している様子が印象的でした。彼は、自身の父親が目立とうと過剰に電流を流して命を落とした過去を回想します。その影響で、祖父が長く戦い続けた結果、認知症を患ってしまったのではないかと自責の念を抱いています。
劇中では、ラーメン屋の店主、変身施設の職員、名古屋のクラブのママ、介護職員、元妻、マネージャーなど、さまざまな人物へのインタビューを通して主人公の人となりが次第に浮き彫りになっていきます。彼の人間臭さや不器用な優しさが、断片的ながらも丁寧に描かれていました。
物語が進むにつれ、外国からやってきた強力な怪獣との戦いが始まります。主人公は逃げ出してしまうものの、それが意外にも高視聴率を記録したため、再び戦うよう命じられます。泥酔して寝ていたところを、無理やり変身させられるという理不尽な展開にも苦笑いしてしまいました。最終的には、別の新たなヒーローが現れて怪獣を倒し、物語は終息。
本作では、主人公が離婚を経験し、娘とも会えず、経済的にも精神的にも厳しい生活を送っている様子が淡々と描かれていきます。その「仕事」が巨大化して怪獣と戦うという非日常的なものでありながら、実際の生活の不条理さと地続きである点が、非常にユニークな設定となっていました。
ただ、上映時間は約110分とやや長く感じられ、登場人物たちの会話も全体的に小声で淡々としており、内容に強い興味が持てない場面では集中力を保つのが難しい印象でした。特撮シーンも派手さには欠け、アクションとしての見応えも少なかったため、「見せ場」が弱く、終盤にはやや疲れてしまいました。
それでも「防衛」と「ヒーロー」を現代日本の縮図として描いている点には強く惹かれるものがありました。怪獣と戦っているのに騒音や損害で非難される姿は、まさに現代の自衛隊のようであり、戦わなければいけない使命感と、それを支えない大衆の冷淡さが社会風刺としても機能していました。
また、北朝鮮を思わせる強力な怪獣に敗れつつも、最終的にはアメリカのヒーロー的存在によってすべてが解決されてしまうという展開にも、どこか皮肉が込められているように感じました。さらに、介護問題や世代間の断絶、社会保障の希薄さといったテーマも巧みに織り交ぜられており、日本社会が抱える「見えにくい重荷」に静かに向き合った作品でもあります。
独特な世界観と静かなユーモア、そして現代社会に対する鋭いまなざしを持った異色の作品として、一見の価値は十分にあると感じました。
☆☆
鑑賞日: 2016/10/31 NETFLIX 2024/10/21 DVD
監督 | 松本人志 |
---|---|
脚本 | 松本人志 |
高須光聖 |
出演 | 松本人志 |
---|---|
竹内力 | |
UA | |
神木隆之介 | |
海原はるか | |
長谷川朝二 | |
板尾創路 | |
宮迫博之 | |
原西孝幸 | |
宮川大輔 | |
橋本拓弥 | |
矢崎太一 | |
街田しおん |
コメント