映画【バンビ】感想(ネタバレ):アニメーションで描く生命の循環と静かな感動

Bambi (1942)
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●こんなお話

 森の王子のバンビが自然の中で行き人間に追われたりする話。

●感想

 森の奥深く、静寂を破るように響く動物たちの声。「王子が生まれた」と、嬉々として走り回る彼らの間で、一頭の小さな鹿が誕生する。その名はバンビ。物語は、森に新しい命が芽吹いた瞬間から始まり、母と子が寄り添いながら成長していく様子を丹念に描いていく。

 小鹿の目を通して描かれる森の四季。風にそよぐ木々の音、雪解けのぬかるみに差す日差し、跳ねるウサギや小鳥たちのさえずり。すべてが緻密に描かれ、生命の循環を感じさせる。遠くから静かに見守る父親の大鹿の姿には、威厳と孤高が漂い、その存在感は言葉なくして語るものがある。

 やがて、森に人間の気配が忍び寄る。狩猟によって母親が連れ去られ、バンビは父に引き取られながら生きていくことになる。このあたりから、彼の成長の物語が本格的に動き出していく。恋に落ちたり、仲間たちの恋愛模様が描かれたりと、少しずつバンビの世界が広がっていくのが感じられました。

 しかし、人間は再び森を侵し、猟犬の襲来や火災によって動物たちの暮らしは脅かされていきます。燃え盛る炎のなか、命を守るために動物たちは必死に逃げ、バンビ自身も戦いながら森の未来をつなごうとする姿が胸を打ちました。最終的に彼は自らも父となり、森の命のバトンを受け継ぐ存在として描かれ、物語は円環のように静かに終わっていきます。

 作品全体としては、70分という短めの上映時間の大半が、森の静かな日常に費やされており、ナレーションやセリフを多用するのではなく、音楽と映像の力で語りかけてくる構成が印象的でした。手描きアニメーションの美しさは圧巻で、キャラクターたちの一挙手一投足に命が宿っているようで、画面の隅々まで見入ってしまうほどでした。

 ただ、観ていて感じたのは、この映画がただ単にストーリーを追うのではなく、「森に生きる命の流れ」を映像として記録するかのような構成になっていたことです。物語というよりは詩に近い体感があり、そのぶん、物語の起伏を求めてしまうと少し戸惑う部分もありました。動物たちが擬人化されているにも関わらず、感情の表現は極めて抑制的で、あくまで自然の一部として描かれている印象を受けました。

 個人的には、アニメーションとしての実験精神が非常に強く、森という大きな存在の中に置かれた個の視点から、生命の誕生と別れ、そして継承を描いているという構造が美しく感じられました。鑑賞後には、物語の起伏よりも、静かな余韻が残り、じんわりと心に染み込んでくるような一作だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2023/01/28 DVD

総監督デイヴィッド・D・ハンド 
場面監督ジェームズ・アルガー 
ビル・ロバーツ 
ノーマン・ライト 
サム・アームストロング 
ポール・サタフィールド 
グラハム・ヘイド 
脚本パース・ピアース 
ラリー・モーレイ 
原作フェリックス・ザルテン 
製作ウォルト・ディズニー 
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