●こんなお話
3人の女性たちの完全犯罪に巻き込まれる男の話。
●感想
物語は、冒頭から一気に観る者の意識を引きつける。風呂場で遺体の処理を行う女性たち。しかも3人で連携しながら淡々と作業を進めている。彼女たちは母と娘たちのようで、その後、山中の樹海へ遺体を運んでいくという展開になる。日常とはかけ離れた異様な行動ながら、登場人物たちはどこか淡々としていて、逆にリアルな緊張感を生み出していた。
この親子は、郊外で風俗店のような施設を営んでおり、共同生活を送りながら生計を立てている。生活感と犯罪性、家族の結びつきと歪みが共存する空間が描かれており、そこに流れる空気が非常に独特だった。社会の中で隠れるように生きるこの家族は、ある意味で極限のサバイバルを体現しており、時に恐ろしくも、どこか人間らしい悲しみがにじんでいた。
一方で物語のもう一つの軸として登場するのが「何でも屋」の男性と、ある少女の関係である。少女は何でも屋にある依頼を持ち込み、そこから彼の運命が少しずつ狂い始める。やがて彼は少女の過去や家庭環境に踏み込み、複雑な感情を抱き始めるようになる。
しかし、その感情の移り変わりはあまり丁寧には描かれず、観ている側としてはやや距離を感じてしまう構成でした。特に、何でも屋の男がどうして少女に心を寄せるようになったのか、その過程が曖昧だったため、気持ちに寄り添いづらい部分もあったり。
中盤から後半にかけて登場する女刑事の存在も物語に新たな風を吹き込む。彼女は、腕時計の鑑定依頼を受けたことから事件に巻き込まれていく。鑑定の結果、腕時計に人肉の痕跡が付着していることがわかり、何でも屋に疑念を抱き始める。だが、彼女の捜査方法はやや異質で、携帯電話をわざと忘れることで相手のGPSを追跡するなど、常識の枠を超えた行動を見せる。この強引さもまた、物語全体のトーンに不穏な余韻を与えていました。
そしてクライマックスは、廃坑を舞台にした40分以上にわたる長尺のシークエンス。登場人物たちの関係性が一気に収束していく展開となるが、やや冗長に感じられる構成だったのは否めないです。ただその中で、主演女優の身体を通して語られる「生きること」の美しさと儚さは、観る者に強く訴えるものがあった。説明を加えず、視覚と表情で語る力強い演出には心動かされるものがありました。
この作品は、ジャンルとしてひとつに括るのが難しい混沌とした魅力があると思います。犯罪映画でありながら家族劇の側面もあり、静と動のバランスも独特で、観る人によって捉え方が大きく変わる作品だと感じました。説明を最小限にとどめたまま、観る側に問いを投げかけるような作りになっており、その余白の多さが印象的でした。
☆☆☆
鑑賞日:2011/10/03 DVD
監督 | 石井隆 |
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脚本 | 石井隆 |
出演 | 竹中直人 |
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佐藤寛子 | |
東風万智子 | |
井上晴美 | |
宍戸錠 | |
大竹しのぶ |