映画【インファナル・アフェア III 終極無間】感想(ネタバレ):崩壊する男の心理戦と愛の記憶が交錯するサスペンス巨編

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●こんなお話

 1人生き残った実はマフィアだった捜査官が何とか身元がばれないようにしようとして、だんだんおかしくなっていっちゃう話。

●感想

 物語は、ヤン捜査官が殉職した後の世界を中心に描かれています。生き残ったラウは、自身の過去と向き合いながら次第に精神的な均衡を失っていく姿が克明に描かれ、シリーズの中でも特に内面に迫った重厚な心理サスペンスとなっています。

 序盤、ラウは事件当時のエレベーター映像の監視カメラが破壊されていたことや、証言の矛盾を何とか誤魔化しながら警察内部で自分の立場を守ろうとします。結果としてなんとか信頼を繋ぎとめるものの、庶務課へと左遷され、警察内部での立場は大きく後退。

 その一方で、新たに登場する保安部の凄腕警部は、過去の事件の真相に鋭く切り込み、真相究明に執念を燃やします。この警部の登場により、ラウは精神的に追い詰められていく。

 物語の中盤では、殉職したヤンの回想が丁寧に挿入され、精神科医との出会いや、次第に恋愛関係に発展していく過程が描かれます。

 さらに、物語は香港マフィアと本土からやってきた新興マフィアとの間で交わされる危うい取引へと発展。ヤンが裏社会の交渉の中で切り捨てられそうになる場面もあり、彼の立場の不安定さと、警察内外の利害関係が複雑に絡み合う様子が描かれます。

 ラウは保安部警部の行動を疑い、盗撮用の監視カメラを設置して密かに行動を記録し始めますが、警部もまたラウを監視しており、両者が“監視し合う者同士”の緊張感を保ち続けます。やがてラウは精神的に追い詰められ、現実と妄想の区別がつかなくなっていきます。

 そしてクライマックスでは、本土のマフィアと思われた人物が実は潜入捜査官だったことが判明。かつてのヤンや保安部警部とも面識があったことが明かされ、さらにラウの正体が潜入マフィアであった事実にもスポットが当たります。この事実により、保安部の警部はラウを逮捕しようとしますが、逆にラウが警部を錯乱させようと画策し、激しい銃撃戦へと突入。最終的にラウは重傷を負い、生死の狭間にあるままおしまい。

 シリーズ1作目の緊迫感あふれるサスペンス路線、2作目の裏社会ドラマの王道的展開とは異なり、本作はよりサイコロジカルな描写が色濃くなっていました。ラウという1人の男が精神的に崩壊していく過程を軸に、愛と妄想、過去と現在、事実と誤認が交錯し、観客を翻弄する構成です。

 また、新キャラクターが次々に登場し、それぞれの思惑や行動がミスリードとして機能するため、前作までの内容を詳細に記憶していないと混乱することは避けられません。とりわけ、ラウが他の潜入捜査官をあぶり出すために怪しい動きを見せる保安部警部に焦点を当てる中で、次第に「すべてが疑わしい」と思わされてしまうストーリーテリングは、なかなか挑戦的だと思いました。

 中盤に描かれるトニー・レオン演じるヤンと精神科医とのロマンスに焦点を当てたシークエンスについては、作品のテンポを緩める存在でもあり、人によっては物語の核心から離れてしまう印象を受けるかもしれません。

 とはいえ、「死ぬことすら許されない無間地獄に陥る」という本シリーズのテーマを、最も悲痛かつ象徴的に体現しているのが今作のラウであることは間違いなく。希望も解決もない、暗闇に沈んでいくような結末は、観る者に強烈な余韻を残しました。

☆☆☆

鑑賞日: 2017/01/09 NETFLIX 2024/10/11 Amazonプライム・ビデオ

監督アンドリュー・ラウ 
アラン・マック 
脚本フェリックス・チョン 
アラン・マック 
出演トニー・レオン 
アンディ・ラウ 
レオン・ライ 
チェン・ダオミン 
ケリー・チャン 
アンソニー・ウォン 
エリック・ツァン 
チャップマン・トウ 
カリーナ・ラウ 

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