●こんなお話
かつて天才的プロファイラーだった男が、再び連続殺人鬼の闇に踏み込み、自分自身の内なる狂気と対峙しながら殺人犯を追い詰めていく物語。
●感想
ウィル・グラハムは、かつてFBIの敏腕プロファイラーとして活躍し、天才的な殺人鬼ハンニバル・レクターを追い詰めた過去を持つが、その際に瀕死の重傷を負い、精神的にも深い傷を残したことで第一線を退き、現在はフロリダの海辺で妻モリーと息子ケビンと共に静かな日常を送っている。
ある日、元上司であるジャック・クロフォードが突然訪ねてきて、満月の夜ごとに二つの家庭が惨殺されるという連続殺人事件の捜査協力を依頼する。犯人はメディアによって「歯の妖精」と名付けられ、異様な犯行手口が世間を震撼させていた。グラハムは家族の安全を条件に、再び捜査の世界へ足を踏み入れる決意を固める。
グラハムは事件現場に立ち、犯人の動線や視線を追体験することで思考に近づこうとするが、その行為は同時に彼自身の中に潜む暴力性や狂気を呼び覚ます行為でもあった。犯人が家族単位を標的にし、写真や映像に異常な執着を見せていることから、歪んだ自己変容願望を抱えている人物像が浮かび上がっていく。
捜査が進む中、扇情的なタブロイド記者フレディ・ラウンズが独自取材で事件を嗅ぎ回り、捜査をかく乱する存在となる。行き詰まりを感じたグラハムは、収監中のレクターを訪ね助言を求めるが、レクターは会話の端々からグラハムの精神状態や家庭環境を巧みに読み取り、やがて彼の住所を突き止めてしまう。
一方で真犯人フランシス・ダラハイドは、盲目の女性リーバ・マクレーンと出会い、彼女の純粋さに惹かれていく。リーバの前では自分を怪物としてではなく普通の男として見せられることで、殺人衝動は一時的に影を潜めるが、その関係は次第に歪み、支配欲と嫉妬によって再び暴力へと傾いていく。
ラウンズはダラハイドに誘拐され、彼の思想と狂気を一方的に見せつけられた末、炎に包まれた車椅子に縛り付けられて殺害される。
グラハムは映像に映り込んだフィルムの痕跡から現像所を突き止め、ついにダラハイドの正体と居場所にたどり着く。しかし同時に、レクターがダラハイドへグラハムの自宅住所を伝えていた事実が判明し、グラハムの家族は直接的な危険にさらされる。
警察と共にダラハイドの家へ突入したグラハムは、激しい銃撃戦の末に彼を射殺し、誘拐されていたリーバは救出される。事件は解決するが、関わった人々の心には深い爪痕が残る。
すべてが終わった後、グラハムは家族の元へ戻っていっておしまい。
本作のクライマックスで描かれる、グラハムが窓ガラスを突き破って突入する場面は、流れる音楽と相まって非常に高揚感があり、独特のテンションを楽しめました。静かな作品でありながら、一瞬で空気が変わる演出が印象的です。
FBIの科学的捜査と、グラハム自身の直感や共感能力が交錯しながら犯人に近づいていく過程も興味深く、理屈と感覚が同時に描かれる点に引き込まれました。
全体として渋さが際立つ作品である一方、展開は控えめで、上映時間がやや長く感じられる部分も正直ありましたが、その静けさが作品の個性でもあると感じます。
レクター博士が電話一本で身分を偽り、瞬く間に主人公の住所を割り出す場面は非常に面白く、強烈な存在感を放っていましたので、登場シーンが少なめだった点は少々惜しく思いました。
☆☆☆
鑑賞日:2025/12/21 DVD
| 監督 | マイケル・マン |
|---|---|
| 脚本 | マイケル・マン |
| 原作 | トマス・ハリス |
| 出演 | ウィリアム・ピーターセン |
|---|---|
| キム・グライスト | |
| ジョアン・アレン | |
| ブライアン・コックス | |
| デニス・ファリーナ | |
| スティーブン・ラング | |
| トム・ヌーナン | |
| ベンジャミン・ヘンドリクソン | |
| マイケル・タルボット | |
| ダン・バトラー | |
| ミシェル・シェイ | |
| ポール・ペリ | |
| パトリシア・シャーボノー | |
| フランキー・フェイソン | |
| クリス・エリオット |


