●こんなお話
入院中の窓から見た女性に恋をして彼女のひみつを探る話。
●感想
夏の陽射しが差し込む病室で、主人公の青年は退屈な日々を過ごしていた。オートバイ事故で足を骨折し、動けない体を窓際に寄せながら、向かいの邸宅をぼんやりと眺める。19歳という年齢の持つ、静かでどこか不安定な空気の中、彼の視線を奪ったのは、一人の女性。静かに佇みながらも、どこか陰のあるその姿に惹かれ、彼女の存在が徐々に日常の中心になっていく。
ある夜、望遠鏡越しに見えたのは、その女性が男性をナイフで刺すという場面。瞬間的な衝撃と混乱、同時に膨らむ好奇心。事件の真相を確かめるため、青年は不自由な足を引きずりながら、彼女に近づいていく。やがて彼女の働く職場にバイトとして潜入し、接触を図る。最初は緊張が漂っていたものの、次第に心を開いていく二人の距離感が描かれていく。
彼女の過去や心の奥には何か隠されたものがあるという気配があり、それが物語全体に不穏な空気を漂わせていたように感じました。青年は彼女の優しさに触れつつも、どこかに違和感を持ち続ける。そして、殺されたはずの男が実は生きていたという事実が判明するあたりから、状況はさらに混迷を深めていきます。青年の目に映っていたものは本当だったのか、それとも彼自身の思い込みや誤認だったのか。視点の揺らぎが物語に不確かさを加え、観客の側にも疑問が生まれていく構成は興味深かったです。
中盤には、青年のスマホに「全て見ているぞ」という不気味なメッセージが届き、彼自身も監視されているという新たな展開が登場します。最終的に、青年を脅していたのは、彼の友人で、密かに彼に思いを寄せていた人物だったという真相が明らかになります。監視アプリを仕込んでいたり、望遠鏡にカメラを仕込んでいたりと、行動のすべてを把握されていたという事実が、静かに恐ろしさを感じさせました。
物語の核心にあるのは、女性の過去と、それに由来する痛みでした。母親に強制された相手との関係の中で虐待を受け、心を蝕まれてきた彼女は、愛する子どもを失った悲しみと罪の意識を抱えながら、心の整理をつけようとしていたのだという。彼女が亡き子を自らの手で埋葬していたという描写には、静かな絶望が込められていて、胸に迫るものがありました。
ただ、個人的には、殺人を目撃する冒頭の導入にはインパクトがあり、作品の方向性としても期待が高まる魅力を感じたのですが、物語が進むにつれて、女性との関係や、彼女の抱える過去についての描写がやや平板で、想像を超えるものにはなりにくかった印象があります。とくに、恋愛的な接近や、過去の事件の構図にはもう少し意外性や深みがあれば、物語としての面白さが増したのではないかと思いました。
最終的に彼女は自ら罪を認め、警察に連れられていきます。青年は複雑な想いを抱えながらも、彼女を責めることはせず、夏の終わりの空を見上げる。ほんの短い時間だったかもしれませんが、彼にとってこの体験が何かを変えるきっかけになったことが、表情の変化からも伝わってきました。
視線の先にあるものを信じて行動した青年と、過去を背負いながら生きていた女性。そして、その背後にあるもう一つの視線という要素を織り交ぜた構成は、青春の揺らぎとサスペンスの緊張感が交差するような一作だったと思います。
☆☆
鑑賞日:2025/08/08 DVD
| 監督 | チャン・ロンジー |
|---|---|
| 脚本 | キャロル・リー |
| 原作 | 島田荘司 |
| 出演 | ファン・ズータオ |
|---|---|
| ヤン・ツァイユー | |
| リー・モン | |
| カルビン・トゥ | |
| チャン・グオチュウ | |
| スタンリー・フォン | |
| コー・シュウチン | |
| チュウ・チーイン |


