映画【バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト】感想(ネタバレ):ハーヴェイ・カイテルが魅せる魂の演技|極限状態の刑事を描いた衝撃作

Bad Lieutenant
スポンサーリンク

●こんなお話

 ニューヨークの刑事の日常の話。

●感想

 ニューヨークの刑事が朝の通学を終えたあと、仲間たちと殺人現場に到着する。現場で交わされるのは、メッツ対ドジャースの試合についての雑談。メッツが追い込まれている中で、主人公はなぜかドジャースに賭けろと勧める。その一言で皆が彼の言う通りにベットする。そしてこの刑事は、その後、麻薬の売人を追いかけていく。だがそれも正義感からではない。実際には売人を人気のない場所へ誘導し、自ら麻薬を買い取る。勤務中であるにも関わらず、平然と薬をポケットに押しこむ。

 ある日、修道女が暴行されたという事件が発生する。刑事は彼女の証言を求めるが、シスターは赦すことを選んだという。その言葉が彼の中で引っかかる。しかし彼の行動は変わらない。イエス・キリストの幻覚を見るほどに薬に溺れ、ふらふらと街をさまよう。交通違反を理由に女性を連行し、権力を乱用してしまう場面もある。同僚からワールドシリーズの賭けで巻き上げた金を失い、彼の焦りは募っていく。追い込まれた刑事は「次の試合で取り戻す」と決意しながら、現場から麻薬を盗み、それをまた自分のものにして吸い込む。

 やがて、修道女を襲った犯人を見つけ出すと、彼らを捕まえて銃を突きつけ、遠くの街へ行けと無理やりバスに乗せる。法の執行とはかけ離れた、ただの個人的な制裁。車を走らせるその帰り道、彼の車の横に並んだ車の窓が開く。銃口が見え、弾丸が彼を襲う。物語は、その瞬間をもって静かに終息していく。

 この映画を観ている間、常に胸がざわざわとして、落ち着かなかったのは確かです。ハーヴェイ・カイテル演じる主人公が、とにかく薬を吸い、酒を飲み、金を賭け、すべてを自分の手で壊していく様は、目をそらしたくなるような生々しさがありました。彼の行動には一貫した倫理も秩序もなく、それでもどこか人間臭さが滲み出てしまうところに、この作品のすごみがあるように思えました。

 物語らしい盛り上がりや起承転結といった構成は特に見られず、ただ1人の男が底なしの地獄へと沈んでいく様子を描き続けているだけなのですが、それが逆にこの作品の強度につながっているようにも感じました。観ていてしんどくなる場面も多く、ハーヴェイ・カイテルの演技は圧巻でした。

 彼の魂が完全に崩壊してしまったかに見える終盤、赦しという言葉が再び浮かび上がる瞬間が訪れます。そのとき、ほんのわずかですが、何かが変わったような、変わらなかったような、言葉にならない余韻が胸に残りました。救いがあったとは言い切れない。それでも、ほんの少しだけ祈りたくなるような気持ちが湧いてきたことは確かです。ひとりの人間のどうしようもなさと、そこにかすかに差し込む光のようなものを見せられたような気がしております。まるで魂のドキュメントを見せられたような、強烈な1本でした。

☆☆☆

鑑賞日:2025/07/16 DVD

監督アベル・フェラーラ 
脚本ゾーイ・ルンド 
アベル・フェラーラ 
出演ハーヴェイ・カイテル 
ゾーイ・ルンド 
フランキー・ソーン 
ヴィクター・アルゴ 
ポール・カルデロン 
レオナルド・トーマス 
ロビン・バロウズ 
ヴィクトリア・バステル 
タイトルとURLをコピーしました