●こんなお話
安重根が伊藤博文暗殺を狙う話。
●感想
物語は、凍てついた川を渡る主人公の姿から始まる。寒さと疲労に打ちひしがれながらアジトへ戻った主人公は、義兵仲間たちから責められる。信頼を失っているわけではないが、目に見えない緊張感が空気に残っている。時はさかのぼり、四十日前。シナ山での戦闘では、日本軍の圧倒的な兵力に対し、主人公たちは勇敢に立ち向かい、勝利を収めていた。
捕らえた日本兵に対し、国際法を尊重して解放する判断を下す主人公。だが、それに反対する声も当然ながらあがる。その善意が仇となり、日本兵はスキを突いて反撃。仲間たちが次々に殺されてしまい、主人公は一人生き残ることになる。命からがら川を渡り、生死の境を越えたその体験は、主人公の抗日への決意をより強固にさせた。静かに指を切り、伊藤博文の暗殺を誓う。
一方、伊藤博文は韓国併合の決定を進めながら、満州鉄道を使ってハルビンへ向かっていた。移動中、列車内では日本による統治の正当性を自ら語る姿も描かれる。そんな中、主人公たちは日本人に変装して列車に乗り込むが、日本兵の尋問を受けたことで正体が発覚。格闘に発展し、仲間たちはバラバラに逃げることになる。
アジトに戻った主人公だが、指揮系統の変更が告げられる。自分と意見が合わない別の仲間が指揮を執ることになり、内部の不和が見え始める。そして、連絡の取れなかった仲間が戻ってきたことで、その人物が内通者ではないかという疑念が浮かぶ。
作戦遂行のため爆薬が必要となり、かつての仲間で今は義賊として満州で活動している男を訪ねることに。砂漠を越え、酒に溺れたその男に会いに行く。義賊は荒んだ生活を送っているが、仲間の思いに応えるように爆薬を渡す。
爆薬を手に入れた矢先、日本軍がアジトを急襲。混乱の中で爆弾を使って逃走する一同だが、仲間の一人が捕らえられてしまう。その仲間は最後に日本兵を前に、祖国への強い思いを語り命を落とす。死に様には静かな覚悟が滲んでいて、胸が詰まる。
その後、移動中の列車内で主人公がついに内通者を特定する。なぜ裏切ったのかが回想を通して描かれ、戦争という極限状況が人の心をどう変えてしまうのかが浮かび上がる。裏切り者をどうするのかという選択の場面が描かれたり。
終盤、主人公は追手の日本兵を欺き、ついにハルビン駅で伊藤博文を待ち構える。駅構内では一触即発の緊張が走り、歴史の大きな瞬間が近づいていく。
作品としては、よくある抗日ジャンルに見られる善悪の構図を踏襲していて、痛快さもありました。勇敢な義兵たちが非情な日本軍と戦い、最後に思いを貫いていく様は、定番ながらも一定の満足感があると思います。
ただ個人的には、今の韓国映画が持つポテンシャルに対して、もう少し深みのある視点や描写を期待してしまいました。同じような服装の登場人物が多く、髭を生やした中年男性たちが会話を重ねていく構図は、視覚的にやや単調に映ってしまいました。
また、日本人のキャラクターの造形がややステレオタイプに寄っていた点も印象に残りました。全体的に、悪役の記号として描かれていた部分が多く、日本人というよりは”悪役”として消費されている印象が否めませんでした。
とはいえ、安重根という人物が涙を流し、苦悩しながら信念を貫こうとする姿には確かに心を打たれるものがありました。馬賊とのロシアンルーレットや、ロシアの街中での爆弾チェイスといった演出も、盛り上げようという意図は伝わってきましたが面白さがなかったです。それに伊藤博文が列車の中でずっと政策を語っている場面が続くなど、やや単調に感じる部分もありました。明治にはないはずの昭和にできた国会議事堂みたいなところで演説する伊藤博文というのを見られました。
総じて、歴史を題材にした作品として、信念を貫く人物たちの姿には見応えがあったと思いますが、もう一歩踏み込んだ深みを見せてくれると嬉しかったです。
☆☆
鑑賞日:2025/07/06 イオンシネマ座間
監督 | ウ・ミンホ |
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脚本 | ウ・ミンホ |
キム・キョンチャン |
出演 | ヒョンビン |
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パク・ジョンミン | |
チョ・ウジン | |
チョン・ヨビン | |
パク・フン | |
ユ・ジェミョン | |
イ・ドンウク | |
リリー・フランキー | |
チョン・ウソン |