映画【団地】感想(ネタバレ):独特な会話劇と展開に引き込まれる!夫婦と団地の物語が描く静かな感動

The Projects (2016)
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●こんなお話

 団地に引っ越してきた元漢方薬屋夫婦に巻き起こる摩訶不思議な話。

●感想

 物語の序盤は、一風変わったテンポと会話のやりとりが印象的で、観ていて少し戸惑うような感覚がありました。しかし、その独特なリズムや間合いが次第にクセになっていき、不思議と心地よく感じられるようになります。そして物語が進むにつれ、どんどん展開が激しくなり、気づけば作品の世界にぐいぐい引き込まれていました。

 舞台はどこにでもありそうな団地。そこへ、主人公夫婦が最近引っ越してきたところから物語は始まります。漢方を求めてやってくるお馴染みのお客さんがいたり、夫は毎日近所をのんびりと散歩し、妻はパートに出かけるという、ささやかな日常が淡々と描かれていきます。一見、何の変哲もない夫婦の暮らしですが、その裏では、ご近所さんたちによる噂話が徐々に広がっていき、物語は予想もしない方向へと進んでいきます。

 夫は地域の自治会の選挙に立候補し、団地内の緑地化を進めようという夢を掲げて活動します。しかし、結果は落選。思いがけない敗北に落ち込み、彼はふさぎ込んでしまい、自宅に引きこもるようになります。これをきっかけに、ご近所の噂話はどんどんエスカレートしていき、「あの奥さん、旦那さんを殺したんじゃないか?」という話まで飛び出してしまいます。しかも、漢方を求めてきた常連客の正体が思わぬ人物であったことが発覚し、物語はさらに意外な方向へと展開していきます。

 会話劇を中心に進んでいくこの作品は、言葉の応酬そのものがリズムになっていて、独特の世界観にじわじわと惹かれていきます。セリフの間合いやちょっとした視線、しぐさが効果的に使われており、単なる日常会話がどこかスリリングで、そしてユーモラスに感じられるのが魅力です。終始、奇妙な緊張感とユーモアが同居しており、100分という時間があっという間に過ぎていく心地よい作品体験でした。

 ラストに描かれるのは、息子を亡くした夫婦の姿。彼らが見せる静かな表情がとても印象的で、余韻のあるラストカットの切り方が深く心に残りました。セリフで語らずとも多くを物語っているその表情には、人生の複雑さや重みがにじみ出ていて、観終わった後にはしみじみとした気持ちが残ります。

 日常の中に潜む違和感、噂が人を追い詰めていく怖さ、そしてそれをユーモラスに、しかし真摯に描いていく演出が素晴らしい作品でした。突飛な展開にも関わらず、人間の奥深さやあたたかさを感じさせてくれる、独自の魅力にあふれた一本だったと思います。

☆☆☆☆

鑑賞日: 2017/05/20 DVD

監督阪本順治 
脚本阪本順治 
出演藤山直美 
岸部一徳 
大楠道代 
石橋蓮司 
斎藤工 
冨浦智嗣 
三浦誠己 
麿赤兒 

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