映画【あんのこと】感想(ネタバレ):立ち直ろうとする若き女性の葛藤と再生の軌跡──映画が映し出す“生き直し”のリアル

An no Koto (2024)
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●こんなお話

 ドラッグや売春をやってる主人公が刑事と出会って社会復帰しようとしていく話。

●感想

 主人公の女性は、ある日ホテルで男から金を受け取ろうとしますが、男は薬でふらふらになって倒れてしまいます。彼女はその場を離れようとするものの、再び部屋に戻り、その後逮捕されてしまいます。

 警察での取り調べでは一切口を開かなかった彼女。しかし、ある刑事が突然ヨガを始め、思わず笑ってしまいます。そこで彼女は隠していた覚せい剤を差し出します。その刑事は彼女に覚せい剤や売春をやめるよう促し、自分が主宰する自助グループへ参加を勧めます。

 最初は距離を置いていた主人公ですが、次第に集会の人々と打ち解け、介護施設で働き始め、給料で祖母にプレゼントを買うなど新しい人生を歩み始めます。一方で、売春を強要してきた母親から逃れるため、記者の協力を得てDV被害者用のシェルターに移り住み、新しい施設でも信頼関係を築いていきます。

 学校では外国人や高齢者たちと共に学び、人生を立て直す手応えを感じていた主人公。しかし、転機となったのは、その刑事が実は更生を目指す人々に性加害を繰り返していたという記者の取材結果でした。刑事は逮捕され、支えだった自助グループは解散。さらにコロナ禍により、仕事や学校も中止になります。

 そんな中、知り合いの女性が突然子どもを置いて去り、主人公は戸惑いながらも懸命に育て始めます。ところが、母親が再び現れ「祖母の介護を一緒にしてほしい」と実家に連れ戻しますが、結局再び売春を強要。主人公が帰宅すると子どもの姿はなく、母親は児童相談所に連れて行ったと語り、主人公は深い絶望に陥ります。

 彼女は再び覚せい剤に手を出し、子どものおもちゃを片付け、ベランダへと向かいます。騒ぎを聞いた記者が駆けつけると、そこには救急車と野次馬の姿が……。

 物語は、逮捕された刑事に記者が面会し、「もし自分があの集会を報道しなければ、彼女の人生は違っていたのではないか」と自問する形で幕を閉じます。

 一度は立ち直りかけた人生が、社会のひずみやパンデミックによって崩れ落ちる。再生の物語でありながら、決して楽観的な結末を描かず、現実の厳しさと向き合う内容です。
 とはいえ、知らない世界に足を踏み入れ、人と出会い、新しい可能性が拓かれていく過程は非常に興味深く、見ごたえのある一作でした。

☆☆☆

鑑賞日:2025/03/29 Amazonプライム・ビデオ

監督入江悠 
脚本入江悠 
出演河合優実 
佐藤二朗 
稲垣吾郎 
河井青葉 
広岡由里子 
早見あかり 
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