映画【100日間生きたワニ】感想(ネタバレ):日常と友情が紡ぐ心温まるアニメ

100 Nichikan Ikita Wani
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●こんなお話

 若者たちの日常の話。

●感想

 動物たちが春の陽気の中でお花見を楽しむシーンから物語は始まる。和やかに広がる風景のなか、仲間のひとりがまだ到着していないことに気づいた面々は、彼のもとへと迎えに出る。そして、信号待ちをしているその遅刻した仲間のひとりに、小さなヒヨコが道路に飛び出してくるという瞬間が訪れる。何気ない日常の一瞬が、やがて物語の中で静かに大きな意味を持ちはじめる。

 時間は一気に100日前へとさかのぼる。主人公の日々の暮らしが淡々と描かれていく。バイト先では、ちょっと気になる先輩がいて、話しかけようとしては言葉をのみこみ、結局は距離を縮められずにいる姿が映し出される。友達とテレビゲームに夢中になったり、仲間の誰かが恋人をつくったり、ラーメンを食べに行ったり、バスケットボールに興じたりと、ごく当たり前の若者たちの青春の日々が続いていく。

 季節が移ろい、中盤以降になると、空気が少しずつ変化しはじめる。仲間たちの間に広がる喪失感。そしてそこへ、新しくバイトとして加わったカエルくんが登場する。彼は明るく振る舞いながらも、どこかぎこちなく、仲間たちの輪にうまく溶け込もうと必死になる姿が描かれていく。その姿がときに痛々しくもあり、観ているこちらまで胸が締めつけられるような思いになりました。

 物語が進むにつれて、カエルくん自身にも心に傷を抱えていることが明かされていきます。自分の思いとは裏腹に空回りする彼の不器用さが、物語の静かな山場となり、そこから少しずつ仲間たちとの距離が縮まり、穏やかな日常がまた流れ出す。人は失ったものを簡単に取り戻すことはできませんが、それでも新たな日々を共に歩むことで、また少しずつ前を向いていけるのだと感じさせてくれました。

 アニメーションの絵柄は、素人目にはシンプルに見えるかもしれません。登場人物たちはボソボソとした小さな声で会話を交わし、独特の間合いで物語が進行していきます。最初はそのテンポに違和感を覚えましたが、見続けるうちにそのリズムが自然と心に馴染んでくる不思議な感覚がありました。まるで現実と地続きであるかのような自然な間と静けさが、作品全体に優しい温度を与えていたように思います。

 正直に申し上げて、物語の前半部分はバイトのエピソードやデート、何気ない日常のやりとりが中心で、個人的にはあまり興味を持てない時間が続きました。しかし、そこに蓄積された日常の描写があったからこそ、後半のカエルくんの奮闘や仲間たちの心の変化がより際立って感じられたのだと思います。特にカエルくんが空回りしながらも前向きに関係を築こうとする様子には、どこか共感といたたまれなさを覚えました。

 この作品は、大切な存在を失ってしまったあとの世界で、それでも日々を生きていくという、ごくあたりまえで、しかし尊いテーマをやわらかなアニメーションと控えめな演出で見せてくれます。決して派手な展開があるわけではありませんが、静かに心に染み入るような余韻のある一本でした。

☆☆☆

鑑賞日:2023/01/22 Amazonプライム・ビデオ

監督上田慎一郎 
ふくだみゆき 
脚本上田慎一郎 
ふくだみゆき 
原作きくちゆうき
出演(声)神木隆之介 
中村倫也 
木村昴 
新木優子 
山田裕貴 
ファーストサマーウイカ 
清水くるみ 
Kaito 
池谷のぶえ 
杉田智和 
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