●こんなお話
少年が昔いたヒーローが向かいに住む老人ではないのかと考えながら悪人の手先になっちゃってトラブルになる話。
●感想
ある街にはかつて、サマリタンとネメシスという名前の正反対の存在がいたと語り継がれている。超人的な力を持つヒーローと、その力に対抗しようとした悪党。2人は双子の兄弟で、壮絶な戦いの末、姿を消した。人々の記憶にその名を残すのみとなった今でも、少年サムはサマリタンがまだどこかで生きていると信じていた。
現代のその街で、サムは母親と2人で生活しているが、日々の暮らしは決して楽ではない。交通費すらままならず、家賃の支払いも滞っている中、サムは時折、近所の悪党たちの手伝いに巻き込まれてしまうような環境に身を置いていた。そんな彼の前にある日、トラブルから逃げていたところを助けてくれた寡黙な老人が現れる。普段はゴミ収集の仕事をしているその男が、圧倒的な力で敵を倒す姿を目にしたサムは、この人こそが伝説のヒーロー・サマリタンではないかと確信するようになる。
老人に興味を持ったサムは、徐々に距離を縮めていく。彼の生活に触れ、言葉少なながらも優しさを感じさせる一面を知っていく時間が描かれていく。
一方で、街では不穏な動きが広がっていた。かつてネメシスが持っていたとされるハンマーを手に入れた若き悪党のリーダーが、貧困層の人々の怒りを煽り始め、停電爆弾で社会を混乱させるような大規模な騒動を画策していく。支配や力に抗うという正義を語りながら、人々を動かすその姿は、ただの悪役とは異なるカリスマ性があり、説得力を持っていたように思います。
そんな混乱の中で、サムは偶然にも彼らの計画を知ってしまい、命の危険にさらされる。さらには敵に誘拐され、人質となってしまう展開に。彼のために立ち上がった老人が、かつて封じていた力を解放し、敵のアジトに単身で乗り込んでいくシーンは非常に見応えがありました。スタローン演じるその姿は、派手なCGではなく、肉体そのものの力強さを感じさせるアクションが中心で、画面に迫力を与えていたと感じました。
物語が進む中で明かされていく真実として、この老人が必ずしも正義そのものではなかったという展開には驚かされました。善と悪のどちらか一方ではなく、複雑な過去があり、サマリタンとネメシスの物語そのものが、一面的ではないことが浮かび上がってきます。ラストでは燃え盛る炎の中、敵との決着をつけた後、サムの前から静かに去っていくという余韻ある終わり方が印象的でした。
少年と老人の交流には温かみがあり、特に壊れた機械を直して見せる場面や、暴力だけでない価値観を語るくだりなど、心に残るシーンも多かったです。ヒーロー映画でありながら、力の意味や存在の重みを問いかけてくるような深さも感じられました。
序盤で描かれる双子設定やネメシス信奉の動機については、もう少し掘り下げがあるとさらに感情移入しやすかったかもしれません。停電爆弾の入手経路など、細かい部分がやや曖昧ではありましたが、あくまでジャンル映画として、テンポよく100分間を駆け抜けていく作りになっていたと思います。
スタローンの存在感がやはり抜群で、寡黙ながらも背中で語るその姿に惹かれました。ヒーローとは何か、力とは何のためにあるのか。そんな問いかけが、アクションの中にしっかりと込められていたように感じます。観終わったあとに少しだけ静かな気持ちになれる、そんな映画体験でした。
☆☆☆
鑑賞日:2022/09/02 Amazonプライム・ビデオ
監督 | ジュリアス・エイヴァリー |
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脚本 | ブラギ・シャット |
出演 | シルヴェスター・スタローン |
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