映画【ラストエンペラー】感想(ネタバレ):清朝最後の皇帝・溥儀が辿った孤独と再生の物語

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●こんなお話

 激動のラストエンペラーの生涯を描いた話。

●感想

 1908年。まだ幼い愛新覚羅溥儀は、3歳のときに母の腕から引き離され、西太后の命によって紫禁城へ連れて行かれる。そこで、彼は清朝最後の皇帝として即位する。
 広大な宮殿、何千という使用人、何百という部屋。彼の周囲には絶えず人がひざまずき、礼を尽くす。しかし、その壮麗な世界は外界から切り離された閉じた箱庭のようでもあった。
 外の世界の息遣いも、変化の風も、幼い皇帝には届かない。彼にとって“外”とは存在しないのと同じだった。

 やがて1911年、辛亥革命が勃発し、清王朝は終焉を迎える。名目上の皇帝として紫禁城に留まりながらも、溥儀の世界は次第に虚構と現実の境を失っていく。
 スコットランド人家庭教師ジョンストンの登場により、西洋の文化や自由の概念を学び、自転車という“自由の象徴”に憧れを抱くようになるが、紫禁城の門は決して開かない。彼の世界は常に壁の内側にあった。

 1924年、ついに紫禁城を追われた溥儀は、逃げ込むように日本の庇護を受け、やがて満洲国の皇帝として再び玉座に座る。だが、それは傀儡としての栄光にすぎず、彼の名のもとに行われる政策の実権は日本の軍部が握っていた。
溥儀は酒と享楽に溺れ、愛する妻はアヘン中毒に蝕まれていく。皇帝という存在が、ただの飾りに成り果てていく姿は痛ましいほどだった。

 第二次世界大戦が終わると、ソ連軍によって逮捕され、溥儀は戦犯として収監される。鉄格子の中で、彼はかつての自分と向き合う時間を持つ。玉座も、権威も、そして“神聖”という名の幻想も失った彼は、初めて“個人”として生きるとは何かを考えるようになる。
 10年の服役を経て釈放された溥儀は、静かな市井の人として、植物を育てる庭師の仕事に就く。かつて自らを囲っていた紫禁城を観光地として訪れるとき、そこには過去の栄華を懐かしむような表情ではなく、静かな穏やかさが宿っていた。


 この作品の魅力は、ヴィットリオ・ストラーロによる壮麗な映像美にあると思います。
光が金色に染まる紫禁城の廊下、儀式のために並ぶ無数の臣下たちの動き、そして誰もいない夜の宮殿の静けさ。流れるようなカメラワークが、栄華と孤独をひとつの画の中に閉じ込めていました。
 紫禁城の内部で自由を知らずに育った溥儀が、外の世界に触れながらも決してそこに踏み出せない姿が印象的です。乳母アーモとの心の絆が、唯一の人間的な温もりとして描かれているのも胸を打ちます。

 クーデターで城を追われ、日本軍に庇護されながらも傀儡として利用されていく彼の姿は、栄光よりも哀しみのほうが強く残りました。そして何よりも、アヘンに溺れていく妻の姿が痛ましく、権力の虚しさと個人の孤独を強く感じさせます。
 最後に、監獄の中で自分を見つめ直し、釈放後に静かに花を育てる溥儀の姿には、これまでの豪華絢爛な映像とは対照的な静けさがあり、彼がようやく“人間”に戻った瞬間のように感じました。

 坂本龍一の音楽も素晴らしく、東洋的な旋律が広がるスコアが、映像に深みと品格を与えていました。
 中国人が全員英語で話すという独特な演出も、異国の歴史を“普遍的な人間の物語”として描こうとする狙いを感じます。長尺でありながら、最後までその世界に浸れる完成度の高い映画でした。

☆☆☆☆

鑑賞日: 2013/10/14 DVD 2025/11/03 U-NEXT

監督ベルナルド・ベルトルッチ 
脚本マーク・ペプロー 
ベルナルド・ベルトルッチ 
出演ジョン・ローン 
ジョアン・チェン 
ピーター・オトゥール 
イン・ルオ・チェン 
ヴィクター・ウォン 
デニス・ダン 
坂本龍一 

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