●こんなお話
かつて愛した男性がスパイ容疑で捕まっているので身の潔白を証明しようと過去を思い出す話。
●感想
主人公はマレーシアで判事を目指す若い女性です。かつて交際していた日本人男性が、天皇の庭師でありながらスパイ容疑で逮捕され、マスコミの追及にさらされています。彼の無実を証明しようと決意した主人公は、二人が出会った過去の場所へと向かうことになります。
物語は回想を交えながら進みます。1950年代の戦後間もない頃、若き日の主人公が、かつて天皇の庭師であった阿部寛さんのもとを訪れるシーンが描かれます。主人公の妹は日本のお寺の日本庭園に深く魅了され、庭師になる夢を持っていました。しかし、その夢は戦時中に日本軍による悲劇で失われてしまいます。妹の夢を叶えるために、主人公は阿部寛さんに弟子入りを志願し、さらにかつて自分たちが収容されていた場所や、終戦時に山下将軍が山中に隠したとされる財宝の謎についても調査を進めていきます。
主人公は庭園づくりの手伝いをすることになりますが、岩を運んだり穴を掘ったりと、意味があるのかないのかわからない作業を地道に続けていきます。その間、共産ゲリラによる市民への物資強奪や治安の悪化が描かれ、戦時中には主人公の姉妹が慰安婦や強制労働を強いられた共産ゲリラと日本軍の影響が交錯する過酷な歴史も映し出されます。
物語は現在、戦後直後、そして戦時中の三つの時代が入り混じる構成で進むため、最初は少し理解が追いつきにくいかもしれません。阿部寛さんが庭園の哲学について語るシーンは、芸術に国境はないという考えが示され、彼の内面を象徴的に表現しています。ただ、その表現は西洋人の目に映る典型的な日本像を描いているようにも感じられます。
庭師である阿部寛さんは、彫り師としても活動しており、主人公の背中に入れ墨を施していきます。その過程で二人は恋愛関係へと発展しますが、キスシーンや恋愛感情の芽生えがやや唐突に感じられる部分もあり、二人の関係の変化に戸惑う瞬間もあります。
物語の中盤には共産ゲリラによる襲撃があり、主人公の家族が悲劇に見舞われます。その後、阿部寛さんは一人で庭園づくりに励み、ある早朝に「散歩に行く」と言い残して姿を消してしまいます。
現在の時代に戻り、主人公は阿部寛さんの家を訪ね、彼が作り上げた庭園を見てその意味を理解します。さらに、自分の背中に掘られた入れ墨が、かつて慰安所として使われていた修道院の場所を示していること、そして山下財宝を活用して慰安婦たちを救う活動をしていたことが明らかになります。
静かに進む物語の中で、戦争の悲劇と恋愛、そして日本庭園の深い哲学が織り交ぜられ、不思議な魅力を持つ作品に仕上がっています。隠された財宝の謎も物語にスパイスを加え、観る者に多層的な感動を届ける映画だと思いました。
☆☆☆
鑑賞日:2022/04/09 WOWOW
監督 | トム・リン |
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脚本 | リチャード・スミス |
原作 | タン・トゥアンエン |
出演 | リー・シンジエ |
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阿部寛 | |
シルビア・チャン | |
ジョン・ハナー | |
ジュリアン・サンズ | |
デビッド・オークス | |
タン・ケン・ファ | |
セレーヌ・リム |