映画【アンテベラム】感想(ネタバレ):奴隷制の地獄と現代社会の闇をつなぐ衝撃作

Antebellum
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●こんなお話

 南北戦争時の南軍のプランテーションの奴隷の酷い生活と現代の女性が社会学者が酷いことになっていく話。

●感想

 物語の冒頭、広大な屋敷を移動するカメラワークで撮影された長回しが非常に印象的でした。婦人が静かに歩いているその周囲には、南軍の兵士や働く黒人奴隷たちが映り込みます。さらに夕焼けの中、遠景には大勢の人々が流れるように動いており、カメラがさらに進むと、男性の奴隷が兵士たちに押さえつけられ、女性の奴隷が逃げようとしている緊迫した場面へとつながっていきます。この冒頭の演出が物語への引き込みとして非常に強力でした。

 また、クライマックスで主人公が馬に乗って過去と現代を超越するかのように駆け抜けるシーンの撮影も、とても美しく力強く、映画のテーマ性を象徴する印象的な演出だったと感じました。

 主人公は、男に名前を尋ねられた直後に焼き印を押される。過酷な綿花畑での強制労働に従事させられ、見張りの兵士たちからは暴言や暴力を受け、奴隷たちは「喋るな」と脅されてまるでロボットのように働かされていく姿が描かれます。

 やがて南軍の兵士たちが現れ、「奴隷を好きにしていい」と命じられたことで、若い兵士が主人公に目をつけます。最初は優しげに接するその兵士ですが、2人きりになったとたん態度を豹変させ、主人公を激しく殴りつけます。この映画に登場する南軍兵士たちは一貫して非人道的で、女性兵士までもが加虐的な態度を取る描写があったり。

 暴行やレイプなど過酷な場面が続きますが、アジアで平穏に暮らしてきた身として、こうした黒人奴隷の生活の一端を映像で知ることができたのは貴重な経験でした。

 ある日、新しい奴隷たちが連れてこられ、将軍のような人物が状況を説明。妊娠している女性奴隷が抵抗しようとするも暴行され、流産に至るという出来事が起こる。その絶望の中で女性は命を絶ち、それを目の当たりにした主人公は脱走を決意。

 将軍の夜の相手をさせられていた主人公が、枕元で鳴る携帯の音で目を覚ますと、舞台は一転して現代に切り替わる。愛する家族と過ごす穏やかな日常が突然始まる展開。

 現代の主人公は、人権活動家のような立場でメディアの取材を受けたり、テレビ番組で討論に参加したりしている。しかし意見の対立から周囲と心の距離ができてしまい、苦しんでいる様子。仕事のために夫と子供と別れて出張先のホテルに向かい、友人たちと食事をして別れた後、タクシーに乗るけど、その運転手がどうも怪しく、不穏な空気が漂います。

 再び場面は奴隷時代に戻り、主人公が目覚めると外では将軍がスマホで電話をしているというシーンへ。南北戦争時代のような環境に、なぜ現代のスマホがあるのかという不思議さがここから加速し、現実と虚構の境界が揺らぎ始める。

 奥さんを殺された男性奴隷と共に脱走計画を立て、スマホを奪おうとしますが将軍に気付かれ、激しい格闘へ。兵士たちを倒し、馬で逃走しながら追手とのチェイスを繰り広げ、物語はクライマックス。

 ここで実は、南軍の将軍は現代の上院議員であり、南北戦争時代を再現するイベント施設が存在しており、そこに黒人たちが拉致されて「再現奴隷」として利用されていたという事実が明らかになる。

 脱走から逃走、格闘と続くアクションシーンですが、突然主人公が馬を乗りこなせるようになっていたり、大柄な将軍を倒せてしまう点についてはやや説得力に欠け、ハラハラ感に繋がらない部分がありました。また、どんでん返し的な展開にしては伏線が少なく、綿花を燃やす描写以外には手がかりがあまり記憶に残っておらず、種明かしがやや唐突に感じられる点もありました。

 それでも、黒人奴隷の歴史とその苦しみをビジュアルで追体験するような時間は強く印象に残り、同時に、差別や歴史の記憶が現代にも生き続けていることを訴えるテーマは力強く、メッセージ性のある作品でした。教育的視点とサスペンスとしての興味深さの両方を兼ね備えた作品として観ることができました。

☆☆☆

鑑賞日:2022/03/24 キネカ大森

監督ジェラルド・ブッシュ 
クリストファー・レンツ 
脚本ジェラルド・ブッシュ 
クリストファー・レンツ 
出演ジャネール・モネイ 
エリック・ラング 
ジェナ・マローン 
ジャック・ヒューストン 
カーシー・クレモンズ 
ガボレイ・シディベ 
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