●こんなお話
アメリカの大学生がタイに旅行したら麻薬の運び屋の濡れ衣を着せられて刑務所に入れられちゃう話。
●感想
大学を卒業したばかりの幼なじみ2人が、新たな門出を祝うように旅に出る。定番のハワイでは物足りない。そんな会話の末に決まった行き先は、東南アジアの国・タイ。異国の空気に心を躍らせながら、彼女たちは観光を楽しみ、自由気ままに現地の空気に溶け込んでいく。
ホテルのプールに忍び込んで泳ぐ無邪気な遊びも、海外という非日常の中では一層スリリングに感じられる。しかしその遊びも束の間、ホテルのスタッフに見つかりかけてしまう。焦る2人のもとに現れたのは、オーストラリアから来た旅行者の男性。機転を利かせてその場を救ってくれた彼に感謝した2人は、彼と一緒に酒を酌み交わし、自然と打ち解けていく。
やがて、そのうちの1人がその男性と親しくなり、恋の予感を感じさせる空気が漂い始める。もう1人の親友はその様子を静かに見つめ、自ら一歩引くようにしてふたりの距離を応援する形となる。そして男性から「次は香港に行くつもりなんだ。一緒に来ないか」と誘いを受けると、主人公たちは少しの迷いを抱えながらも新たな旅へと踏み出すことにする。
ところが空港で突然、警察に銃を突きつけられ、所持品のチェックを受けることに。鞄の中から見つかったのは大量の麻薬。青ざめる2人。なぜこんなものが?と混乱する間もなく、彼女たちはタイの刑務所へと送られてしまう。楽しかった旅行が一転して悪夢のような現実に変わる。異国の地、しかも言葉も文化もまるで異なる環境の中で、何が正しいのかもわからないままに、彼女たちは必死に無実を訴えていく。
刑務所内では、先輩受刑者から嫌味を言われたり、何とか意思疎通ができる英語を話す人物からアドバイスを受けたりと、厳しい環境に適応しようとする姿が描かれる。そんな中、主人公の父親がタイにやって来て、娘を気遣う言葉をかけるのだが、娘の友人に対しては「お前のせいだ」「嘘つきだ」と突き放すような言葉を投げかける。悲しみにくれる親友の姿が胸に迫る。
その後、タイで法律事務所を営む弁護士が2人の窮状を知り、救いの手を差し伸べようと動き始める。現地の法律や制度に則り、まずは正規の手続きを進めるために、主人公たちの家族に費用の振込を依頼。警察やアメリカ大使館への交渉を丁寧に進めていくが、なかなか突破口は見えてこない。
事態が好転しない中で、2人の間にも亀裂が生まれてしまう。心をひとつにしてきた親友同士が、極限の状況で対立してしまう場面には、やるせなさが漂っていた。弁護士も次の手を打ちあぐねていたが、妻の助言に背中を押され、警察と麻薬組織の裏の関係を掴んでいることを交渉材料に、タイの政府に強く訴えかけていく。
やがて国王への恩赦を直訴できる機会が訪れる。しかし、そのチャンスも土壇場で潰されかける。追い詰められた主人公は、刑務所で覚えたタイ語を使い、懸命に訴える。「せめて、親友だけでも助けてください」と。そのひたむきな想いが届き、親友は釈放されることになるが、主人公はその代償として自ら刑に服す決意をする。
このクライマックスの展開には、本当に驚かされました。友情のために自分を差し出す主人公の姿には強い衝撃とともに、深い余韻が残ります。親友を救った代償として、彼女はそのまま刑務所に残り、物語は静かに終わりを迎えます。
しかも、彼女たちを陥れたオーストラリア人の男性が罰を受けることもなく、因果応報の要素が描かれないまま幕が下りていくという構成に、ハリウッド映画らしからぬ後味を感じました。スッキリするカタルシスこそないものの、だからこそ現実に近い感情の揺らぎが胸に残ったように思います。
弁護士の奮闘も描かれますが、その過程にはドラマティックなカタルシスというよりは、淡々と試行錯誤を繰り返している印象でした。それでも、異国で捕まり、どうにもならない不条理の中で足掻く少女たちの姿には、観る者の心をざわつかせる力がありました。友を信じる気持ち、正しさを貫こうとする意志、それらが折り重なりながら静かに浮かび上がってくるような作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2022/03/20 Disney+
監督 | ジョナサン・カプラン |
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脚本 | デイヴィッド・アラタ |
原案 | アダム・フィールズ |
デイヴィッド・アラタ |
出演 | クレア・デインズ |
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ケイト・ベッキンセイル | |
ビル・プルマン | |
ジャクリーン・キム | |
ルー・ダイアモンド・フィリップス | |
ダニエル・ラペーヌ |