●こんなお話
台湾の立法院で総統がゾンビ化して、みんなゾンビになっちゃうんで大変な話。
●感想
台湾映画らしいテンションの高さと勢いで、冒頭から最後までぐいぐいと突っ走るコメディ作品でした。物語は、工場建設に反対する議員と、それを推進する立場の議員たちとの対立構造から始まっていく。反対派の議員は苦境に立たされ、ついには失職。そこで、かつての支持者や秘書たちの策により、まったく政治とは無縁だった警備員の青年が次の候補として立たされることになる。
この警備員というのが、昔からどこかぼんやりした青年で、学生時代にはいじめられて鼻血をよく出していたような存在。そんな彼を学生時代に庇っていたのが、まさにその反対派の議員であったことが回想シーンで明かされていく。偶然の再会から始まるドラマには、台湾映画らしい情とユーモアがたっぷりと詰まっています。
選挙活動はドタバタとした展開ながらも、SNSやメディアの力で一気に話題となり、あれよあれよという間に警備員は当選してしまう。しかも、彼自身には政治的な信念も特にないまま、周囲の思惑と勢いだけで議場へと送り込まれていく。
このあたりまでは、テンポの良い台湾コメディとして気軽に楽しめる雰囲気が続いていきますが、物語が大きく転がり始めるのは、開始30分ほど経過したあたり。突如として総統がゾンビ化し、次々と人々を噛み始めるという驚きの展開が始まる。議場は一気にパニック状態となり、血しぶきの飛び交うバトルの舞台へと変貌する。
ゾンビたちとの戦いは、基本的に立法院の中で行われ、照明が真っ赤に染まり、重低音の音楽とともにぶつかり合いが続いていく。警備員の青年もゾンビに噛まれるが、なぜか彼だけは感染しない。そして、彼の血にゾンビが触れると退治できることが判明する。このアイデアが物語の中盤以降の鍵となり、人々は彼の血を顔に塗ってゾンビとの戦いに挑むことになる。まるで迷彩を施した兵士のような演出が施されるこのシーンは、ユーモラスでありながらも作品のアイコンのような印象を残した。
ただし、戦いが本格化してからは、アクションシーンがやや単調に感じられる部分もありました。照明の赤が全体を覆うなか、長回しや室内での乱闘が延々と続き、次第に動きの意味が薄れていくような感覚もありました。ゾンビ映画ならではの“噛まれた者の自己犠牲”といった定番のドラマ展開も盛り込まれますが、全体の尺が短いためか、それらがやや駆け足に消化されてしまった印象も残ります。
とはいえ、台湾のコメディ映画らしい過剰な演技や効果音の入れ方は健在で、笑いの方向性が非常に個性的でした。人が殴られるたびに音が鳴るとか、リアクションが大げさで舞台演劇のような印象を受ける場面も多く、好みによってはそのユーモアがクセになる方もいらっしゃると思います。
個人的に印象深かったのは、映画全体に散りばめられた“政治”に対する風刺のエッセンスです。たとえば、立法院のすぐ隣に学校があるという台湾特有の立地がサラッと描かれていたり、最後に流れる「90分の映画なら我慢できるが、政治は4年間我慢しなければならない」というテロップが、笑いながらも観る者に鋭く刺さるメッセージになっていたと思いました。
ゾンビ映画として、そして台湾風味の濃いコメディとして、かなり独特な味付けの作品ではありましたが、その勢いとバカバカしさに身を委ねることで、他では味わえないユニークな鑑賞体験を楽しめる映画だったと思います。
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鑑賞日:2021/10/23 試写会
監督 | ワン・イーファン |
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脚本 | チエン・シーケン |
ワン・イーファン |
出演 | ハー・ハオチェン |
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メーガン・ライ | |
フランチェスカ・カオ | |
トゥオ・ツォンホア | |
ヤン・ワンルー |