映画【Mr.ノーバディ】感想(ネタバレ):平凡な男が秘めた最強の過去と家族への愛

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●こんなお話

 毎日退屈なルーティンを過ごしていた家庭人のお父さんが実はどこかの機関で働いてた履歴を思い出してロシアンマフィアと戦うことになる話。

●感想

 郊外で平凡に暮らす中年男ハッチ・マンセルは、妻ベッカと二人の子どもに囲まれ、淡々とした日々を過ごしていた。毎朝決まった時間に起き、ゴミを出し、会社で帳簿を整理し、夕食を共にする。そんな毎日は穏やかだが、家族の中で彼の存在は軽んじられ、父親としても夫としても影の薄い存在になっていた。

 ある夜、覆面をかぶった二人組が家に押し入り、現金を要求する。ハッチはバットを手に取るが、結局抵抗せずに彼らを逃がしてしまう。その結果、息子のブレイクが軽傷を負い、家族からは臆病者だと責められる。

 数日後、奪われた腕時計を探すうちに、ハッチは犯罪者のタトゥーを頼りに彼らの居場所を突き止める。しかし彼らが貧しい家庭を抱える夫婦だと知ると、殺すことができずに立ち去る。帰りのバスの中で、酔ったチンピラたちが女性に絡む場面に遭遇したハッチは、抑えていた本能を解き放つ。五人の男たちに囲まれながらも圧倒的な戦闘能力でねじ伏せる。血まみれの彼の姿には、ただの一般市民ではない異質さがあった。

 だが、その中の一人がロシアン・マフィアの幹部ユリアンの弟だった。報復に動くユリアンの手下が家を襲撃するが、ハッチは家族を避難させ、一人で迎え撃つ。冷静に敵を仕留めていく。やがて彼の正体が明らかになる。かつて国家の裏組織に所属し、不要とされた人物を「会計士」として消していた男だっだ。表向きは平凡な市民を装いながらも、彼の内には冷徹な暗殺者の血が流れていた。

 ハッチはユリアンの資金を奪い、敵を自らの工場へ誘い込む。周到に張り巡らせた罠の中で、銃撃と爆破の応酬が繰り広げられる。ユリアンとの一騎打ちでは、地雷を仕掛けて勝利を掴む。事件後、ハッチは警察に拘束されるが、すぐに上層部らしき人物からの電話で釈放される。その後、ベッカと共に新しい家を購入し、新たな生活を始める。しかし、家を紹介する不動産業者に電話が入ってハッチ夫妻は「地下室はあるか」と尋ねておしまい。

 冒頭の、曜日を示す文字が画面いっぱいに流れ、同じ日常を繰り返すルーティンを高速で見せる演出がとても印象的でした。ハッチという男の「何かを押し殺して生きている」空気が、映像だけで伝わってきます。家族との関係が冷え切っていても、娘だけは父親を慕ってくれるというわずかな救いがあり、そこに彼の人間味が垣間見えました。

 バスでの乱闘シーンは、抑えてきたフラストレーションが爆発する瞬間として見応え抜群です。決して完璧な戦士ではなく、血を流しながらも立ち上がる姿がリアルで、観ているこちらまで息を飲んでしまう迫力がありました。窓ガラスを突き破って外に放り出され、そこから再び戦いに戻る演出も、アクションとして非常にユニークで魅力的でした。

 中盤以降は、ロシアンマフィアの報復劇が中心となり、物語は一気に暴力の世界へと傾いていきます。ハッチが「ただの父親」から「かつての殺し屋」へと変貌していく過程には、ある種のカタルシスがありました。家族を守るために過去の自分を呼び戻すという構図はシンプルながらも力強く、観ていて不思議と爽快感がありました。

 クライマックスの銃撃戦は、工場という閉ざされた舞台を活かした構成で、仕掛けの数々や敵の迎撃方法にも工夫が感じられました。ただ、これまで無線越しに話していた人物が突然助っ人として登場する展開は、唐突で少し感情の流れが追いつかない印象も受けました。

 それでも、作品全体としてはアクション映画の醍醐味がしっかり詰まっていて、テンポの良い編集と小気味よいユーモアが共存している一本でした。暴力的でありながらもどこか人間的な温かさを感じさせる、不思議な余韻を残す映画です。普段は静かな男が、守るべきもののために牙をむく瞬間。その痛快さと切なさが同居した作品として、非常に印象に残る一作でした。

☆☆☆☆

鑑賞日:2021/06/14 TOHOシネマズ日比谷 2025/10/21 U-NEXT

監督イリヤ・ナイシュラー 
脚本デレク・コルスタッド 
出演ボブ・オデンカーク 
コニー・ニールセン 
RZA 
マイケル・アイアンサイド 
クリストファー・ロイド 
アレクセイ・セレブリャーコフ 
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