●こんなお話
暴虐な将軍の弟を暗殺チームとそれを阻止する将軍の護衛チームの戦いの話。
●感想
時代の安定と平和を脅かす存在として描かれる将軍の弟。その無軌道ぶりが、ついには政の中枢をも揺るがしかねないということで、表立った処罰が難しい中、密かに暗殺を遂行するための刺客集団が組織されていく。物語は、その計画に参画する者たちを一人ずつ集めていく過程と、彼らがいかにして相手方の軍勢に挑むかという作戦を練り上げていく過程を軸に展開していく。
登場するのは十三人の男たち。彼らが相手にするのは、参勤交代の帰路を進む主君と、その護衛に当たる大軍勢である。圧倒的に不利な人数差の中で、どのように戦況をひっくり返すのかという知略と行動のドラマが見どころとなる構成でありながら、作品全体のトーンは意外なほどに落ち着いており、画面の色彩も白黒による重苦しさが支配している。
現代の感覚では、時代劇といえば剣戟アクションの爽快感を期待してしまいますが、この作品ではそういった高揚感はほとんどなく、むしろ戦いの不条理さや、命を奪うことの重みが静かににじみ出てくる作りとなっていました。劇伴には伊福部昭さんによる力強くも荘厳な音楽が用いられていて、それが画面の陰影と響きあって、緊張感の持続を生んでいたように思います。
戦闘の場面では、刀を抜いて突っ込んでいく侍たちが互いにぶつかり合い、斬るよりも斬られることに怯えるような姿が印象的。殺陣の描写においても、よく見るような様式化された所作ではなく、混沌とした群衆戦の中で生き延びようともがく人間たちの泥臭い動きが中心に据えられていた。お互いが初めて人を斬るという前提があることで、刀を持つ手にも明確な迷いがあり、その躊躇がより現実味をもたらしていたように感じられました。
構成としては、クライマックスに至るまでに大きな盛り上がりは抑えられていて、中盤では川を渡る敵方を狙った襲撃が試みられるが、影武者の存在によって混乱が生じ、計画は失敗に終わってしまう。その後は敵の動きを読みつつ、宿場町を要塞化して迎え撃つための準備が淡々と進んでいく。静的な展開が続く中で、それぞれの人物の動機や背景が深く描かれていれば良かったのですが、十三人の刺客のうち何人かは印象に残る前に物語が進んでしまう部分もあったように思います。
それでも、終盤の戦闘描写においては、圧倒的に不利な状況の中で、各人が己の命を懸けてぶつかっていく姿が強く胸を打つ。そんな中でも特に印象に残ったのは、西村晃さんが演じた剣豪の姿でした。それまで無敵の強者として描かれていた人物が、終盤で刀が折れ、「刀!助けてくれ!」と叫びながら逃げ惑う姿に、あまりに人間的な脆さがにじんでいて、観ていて心に残る場面になっていたと思います。
決して明るさや娯楽性を前面に押し出すような作品ではなかったが、時代劇としての静けさや、剣と命の重さを問いかけるような作りには深い余韻がありました。派手な演出ではなく、抑制された表現によって引き出された緊張感が、作品全体に重厚さを与えていたと感じます。
☆☆☆
鑑賞日:2020/10/30 NHK BSプレミアム
| 監督 | 工藤栄一 |
|---|---|
| 脚本 | 池上金男 |
| 出演 | 片岡千恵蔵 |
|---|---|
| 里見浩太朗 | |
| 嵐寛寿郎 | |
| 西村晃 | |
| 阿部九洲男 | |
| 山城新伍 | |
| 水島道太郎 | |
| 加賀邦男 | |
| 汐路章 | |
| 沢村精四郎 | |
| 春日俊二 | |
| 片岡栄二郎 | |
| 和崎俊哉 | |
| 丘さとみ | |
| 藤純子 | |
| 月形龍之介 | |
| 河原崎長一郎 | |
| 三島ゆり子 | |
| 高松錦之助 | |
| 神木真寿雄 | |
| 高橋漣 | |
| 水野浩 | |
| 原田甲子郎 | |
| 菅貫太郎 | |
| 北竜二 | |
| 明石潮 | |
| 堀正夫 | |
| 有川正治 | |
| 小田部通麿 | |
| 香川良介 | |
| 芥川隆行 | |
| 丹波哲郎 | |
| 内田良平 |


