映画【君に届け】感想(ネタバレ):多部未華子と三浦春馬が紡ぐ優しさと感動

kiminitodoke
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●こんなお話

 クラスに馴染めない高校生の初恋の話。

●感想

 主人公が「貞子」とあだ名され、周囲から恐れられていた少女時代。物語は冒頭の10分で、その過去を一気に描いてみせる。語られ過ぎず、それでいて必要な情報はすべて伝わってくる。この導入のテンポ感と構成は、とても巧みなものに思えた。観客は主人公の置かれた状況や性格にすぐ寄り添うことができる。

 高校に進学しても、周囲との距離はなかなか縮まらず。黒髪で無表情な外見が災いし、クラスメイトからはどこか浮いた存在として扱われていく。それでも、彼女はまっすぐで、人の心を否定しない芯のある子だった。たとえば「霊感ありそう」と言われれば、「期待に応えられなくてごめんなさい」と、きちんと謝ってしまうような誠実さがある。その一言に、彼女の優しさと自己肯定感の低さが滲んでいて、胸を打たれました。

 序盤は、そんな彼女とクラスの人気者・三浦春馬さん演じる男子生徒との交流が描かれ、ラブストーリーになるのかと思わせる。しかし本作がじっくりと描こうとしたのは、恋愛よりも「友だちを持つこと」「関係を育むこと」だった。主人公に初めてできた友人。けれど、彼女と一緒にいることで周囲の視線が変わっていくことを察した友人が、何も言わずに距離を取ろうとしてしまう。その微妙なズレと、すれ違いがとても丁寧に描かれていたと思います。

 本作のタイトル『君に届け』が、象徴するように、想いが届かない時間がつづいていく。その苦しさが画面からひしひしと伝わってきて、観ている側の気持ちも次第に重なっていった。なかでも、三浦さん演じる男子が主人公にかけた一言、「君だったらどうする?勝手に友だちが距離をとったら?」という問いかけに、涙ながらに「そんなのイヤです」と答える場面には心を揺さぶられました。真心から絞り出した言葉は、時として劇中のどんな演出よりも強い説得力を持つのだと改めて思わされました。

 そして、誤解を解こうとする主人公が、悪い噂の出所に対して正面から向き合い、真っ直ぐな思いで謝罪を求め、再び友人との絆を取り戻す流れもとてもよかったです。対立や対決が感情を激しくぶつけ合う形ではなく、言葉と気持ちによって一歩ずつ整理されていくプロセスに、とても静かな感動がありました。

 また、主人公と三浦春馬さんの間に立つような役として登場する桐谷美玲さん演じるキャラクターも印象的でした。単なる意地悪な存在ではなく、彼女自身にもまた不安や葛藤があることが描かれていて、敵役というよりも、誰もが迷いながら日々を生きていることを象徴するような存在だったと思います。

 後半は、多部未華子さんと三浦春馬さん、2人の気持ちが近づき、すれ違いながらも少しずつ本音を交わしていく展開が続いていきます。観ている側はすでに、彼らの気持ちを理解しているがゆえに、早く想いを伝えてほしいと願わずにはいられませんでした。クライマックスは花火大会。夏の終わりと共に、想いが形になる瞬間。多部さんが「私、やっぱり気持ち伝えたい」と言い、走り出すシーンには、つい「行けー!」と応援したくなってしまいました。

 全体を通して、悪役が明確に存在せず、登場人物たちがそれぞれの不器用さや思いやりのなかで関係を築いていく過程が、まるで漫画のように瑞々しく描かれていました。多部未華子さんの芯の強さと可憐さ、そして三浦春馬さんの爽やかさが心に残る、とても温かな青春映画だったと思います。とりわけ、彼の笑顔がスローモーションで映し出されたときの破壊力は絶大で、これはもう反則だとすら感じてしまいました。

 応援したくなる主人公、伝えたい気持ち、伝わらないもどかしさ。そのすべてが、静かな余韻として心に残る、やさしい映画だったと感じています。

☆☆☆☆

鑑賞日:2012/04/17 DVD

監督熊澤尚人 
脚本根津理香 
熊澤尚人 
原作椎名軽穂
出演多部未華子 
三浦春馬 
蓮佛美沙子 
桐谷美玲 
夏菜 
青山ハル 
金井勇太 
ARATA 
勝村政信 
富田靖子 
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