映画【十一人の侍】感想(ネタバレ):美しき映像と静かな誓いの物語

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●こんなお話

 暴虐な将軍の弟にリベンジする侍たちの話。

●感想

 冒頭から観客の意識をぐっと引き寄せるような展開で始まっていました。将軍の弟が、主君の忠言を退け、激高した末に弓矢で目玉を突き刺して殺してしまうという衝撃の場面。正義や節度など通用しない狂気に支配された暴君の姿が突きつけられて、何が始まるのかと緊張が高まります。その苛烈な導入部だけでも、なにやらただ事ではない物語の予感に満ちていました。

 物語は、その理不尽な暴君に対して立ち上がる侍たちの姿を描いていきます。不条理な仕打ちを受けた側が、自らの命を懸けてリベンジを遂げようとする筋立てには、勧善懲悪のわかりやすさがあり、そこに時代劇ならではの清々しさも期待してしまいます。主人公を演じる夏八木勲さんの存在感はやはり大きく、静かな佇まいに強い意志が宿っているようで、全体を引き締めていた印象があります。

 しかしながら、それ以外の登場人物の輪郭がやや曖昧で、ひとりひとりの個性が強く印象に残るという形にはならなかったように感じました。たとえば、西村晃さんが演じる浪人は偶然に計画を耳にして関わっていくという面白い立ち位置でしたが、それ以外の仲間たちについては顔と名前が一致せず、見ていて整理がつきにくい部分もありました。そのため、クライマックスに向けて命を賭けた行動に出る場面でも、「誰が、なぜその役割を担っているのか」という背景が希薄に映ってしまい、ドラマの盛り上がりに結びつかなかった印象です。

 また、暗殺対象である将軍の弟に対する接近戦や策略といったサスペンス性はあまり前面に出てこず、思ったよりも簡単に忍び込めてしまうような描写が続くため、物語の緊張感が保たれにくい構成でもあったように思いました。暗殺計画が練られて、そして突然中止され、また再開しては中止になるという繰り返しも、ややテンポを損ねていた印象が残ります。

 とはいえ、映像面では非常に美しく、時代劇ならではの美意識が全編にわたって貫かれていたように感じます。たとえば、霧が立ち込める中、遠くから馬のひづめの音だけが聞こえ、やがて武士たちが現れる場面。あの静けさと緊張感が交差する構図には思わず見入ってしまいました。ラストの雨中の決戦もまた迫力があり、泥まみれの中で命を削るように戦う姿は、物語以上に映像が語っている時間でもありました。

 欲を言えば、侍たちの個々の背景や関係性がもう少し丁寧に描かれていれば、戦いの場面にもより深い感情を伴って観ることができたように思います。理不尽に対する怒りや誇りをかけた戦いという本来のドラマが、少しばかり輪郭を持ちきれなかった印象でしたが、それでも画面の中で語られる時代の空気や静かな決意の重なりは、今の時代劇ではなかなか味わえない力を持っていたと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2012/06/05 DVD

監督工藤栄一 
脚本田坂啓 
国弘威雄 
鈴木則文 
出演夏八木勲 
里見浩太朗 
有川正治 
岩尾正隆 
青木義朗 
林真一郎 
五十嵐義弘 
汐路章 
唐沢民賢 
大川栄子 
西村晃 
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