●こんなお話
昔、当て逃げ事故を目撃した主人公がその事故の真相が明らかになっていく話。
●感想
物語の始まりは、新聞社で研修生として働く主人公が、雨の降る山中で車のエンストにより立ち往生している最中に、衝突事故を目撃するところから始まります。加害者は現場から逃走し、被害者の運転手は死亡、助手席にいた女性は重傷を負うという出来事。主人公は事故現場で撮影した加害者の写真を上司に見せますが、なぜかその情報は報道されないまま月日が流れ、9年後には一人前の記者として働いているという設定に切り替わります。
その後、主人公は交通事故を再び目撃します。今回は国会議員が関与し、助手席には女性が同乗していたことから、不倫疑惑として報道しようとします。ところが、その後に自分自身が自動車事故を起こし、修理のため車を工場に持ち込むと、整備士から「この車、以前にも事故歴がありますよ」と告げられる。主人公は旧知の警察官に頼んで自分の車の履歴を調べてもらったところ、9年前に自分が目撃した当て逃げ事件の被害車両であったことが判明します。
さらに、主人公が報道しようとしていた議員は実際には既婚者で不倫ではなかったため、逆に名誉毀損で訴えられ、新聞社を解雇されてしまいます。そこから主人公は、過去の当て逃げ事件に関連する人物を追う調査を再開し、被害者の一人である女性を探し始めます。高級茶を手土産に訪ね取材を申し出るも一度は断られますが、後にその女性から「やっぱり話をする」と連絡が入り、再会の約束をするも直前に誰かが彼女の元を訪れ、彼女は行方不明に。主人公が再訪すると、彼女の部屋に不審な男がいて、追いかけるものの取り逃がしてしまいます。
物語はここからサスペンス色が強まり、誘拐された女性の監禁や脱出劇、怪しい男の家への訪問、決定的証拠が掴めないもどかしさ、そして自動車工場の整備士の自殺といった重い展開が続きます。そして、上司の女性記者が、実はその整備士がかつての当て逃げ犯であったと証言。さらに調査が進むにつれ、加害者は当時の内務大臣だったことが判明。
そして、事故当時、被害者の車に乗っていた人物は富豪の娘を誘拐し、身代金を持って逃げていた途中で事故に遭遇していたという。主人公はその身代金の一部を事故現場から持ち去っていたことを告白。そして、上司の女性記者こそが実は当時の車の運転手であった可能性が示唆され、「いったい誰が本当に運転していたのか?」という謎を残したまま物語はおしまい。
この作品は、サスペンスとしての完成度の高さと複雑なプロット構成、そして重層的な人物関係が見どころでした。ただし、あまりに多くの要素が盛り込まれており、最初は当て逃げ事件の真相解明を主軸に展開していた物語が、途中から誘拐・監禁・政治スキャンダルといった要素を絡めていくため、話の方向性がやや見えにくくなる部分もありました。
また、事故当時の出来事が複数の視点から語られる「羅生門スタイル」で描かれるため、観客としては混乱を感じる構成でした。さらに、被害女性が受けるバイオレンスの描写もかなり過激で、見る人によってはつらい場面もあるかもしれません。
それでも、この作品の最大の魅力は、すべての登場人物が何らかの形で事件とつながっており、誰一人として「ただの脇役」ではないという緊密な構成にあります。「台湾という国はこんなにも世界が狭いのか」と思わせるほどに、すべての線が一本の糸でつながっていくような緻密な脚本に、驚かされました。
☆☆☆
鑑賞日: 2018/07/27 DVD 2022/10/09 Amazonプライム・ビデオ
監督 | チェン・ウェイハオ |
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脚本 | チェン・ウェイハオ |
出演 | カイザー・チュアン |
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ティファニー・シュー | |
アリス・クー | |
クリストファー・リー | |
メイソン・リー |
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